■「宏観現象」と地震の奇妙な関係?

2024年能登半島地震

2024年1月、能登半島を襲った大地震。ここでも宏観異常現象が目撃されたのか?

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 地震が起こる前に動物が騒ぐ、山が光る、妙な雲が出る──そうした現象を「宏観異常現象(宏観現象とも)」と呼ぶ。前編では、地震の前に動物が騒ぐのは「地中電位」、つまり、土の中を流れる電流の変化が原因の宏観異常現象だと説明した。

 

 地中電位にはわからないことが多く、研究者も少ないが、地震の前触れで岩盤が動き、そのせいで地中電位が変化するというが通説だ。ところが逆に、「地中電位が変わったから地震が起こる」という、妙な研究を見つけた。もしかして、これまで“陰謀論の代表格”だの“エセ科学の王道(?)”だのと揶揄されてきた地震兵器の原理ってこれなのかもしれない?

 

■盗んだ核弾頭で大地震を引き起こす⁉

ロシアのタイフーン級原潜。こうした沈没した原潜から核弾頭を抜き取って地震を起こすという陰謀論は、あまりに荒唐無稽だ。

画像:Bellona Foundation, Attribution, via Wikimedia Commons

「3・11東北地方太平洋沖地震は闇の勢力による人工地震だ!」

 

 という陰謀論を目にした読者も少なくないだろう。そうした「人工地震陰謀論」本の著者から直に聞いた話では、沈没したロシアの原潜から抜き取られた核弾頭が使われたそうで、『ゴルゴ13』にも出て来ないぶっ飛んだ「隠蔽された真実」に目が覚めた。しかも、それを日本が誇る地球深部探査船「ちきゅう」が海底に穴を掘って埋めて起爆させたのが「3・11の真相」なのだという。

 

 面白い! 何もかもがファンタジーでアメージングで面白過ぎる。沈んだ原潜から核弾頭を抜き取るなんて、スパイ映画かよ。「ミッション・インポッシブル」シリーズの脚本チームが買いに来るぞ。

 

 ただ、そもそもの話、核弾頭を地震発生源の深さまで送り込めるのか? 送り込めなきゃ核爆発で地震を引き起こす説は成り立たない。逆にもし、震源より浅いところで核爆発を起こしたら、気象庁に地震波が観測されてディープステートだか闇の勢力だかの犯行がバレてしまう。

 

JAMSTEC(海洋研究開発機構)が誇る地球深部探査船「ちきゅう」。陰謀論界隈では人工地震の「主犯」とされているが、そんな深くまで掘れません。あしからず。

画像:Gleam, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 東北地方太平洋沖地震の震源は宮城県牡鹿半島から東南東130キロメートル付近の三陸沖で、深さ約24キロメートル。まっすぐ地下へと掘ったとして富士山の7倍強の深さだ。そんな深さのボーリング? パイプだけで何百トンになるのやら。しかも、その深さだと地熱が800度を超えますからね。日本ご自慢のハイパースチールでも歪むだろう、超高圧だし。
 
 そもそも人類はそんな深さまで掘ったことがない。地下24キロメートルなんて深すぎて掘れない。高温超高圧の地殻に穴を開け、核弾頭を放り込んで起爆? 起爆する前に核弾頭の電子基板が溶けて操作不能になることだけは間違いない。

 

■われらがロシア、ヤバめの地震実験に挑戦

キルギスの実験データ。電力の投入後の地震発生回数をグラフ化したもの。電力投入から2日後に顕著に地震が増えている

 

 では地震兵器はないのか? あるわけないだろうと思っていたら、「いやいや、そこはそうでもないのよ」と、この連載でもおなじみのロシア(旧ソ連)がしゃしゃり出てきた。ホントにヤバめの科学の宝石箱みたいな国だ。実は、1983~1990年にかけて、旧ソ連のキルギス山脈で「奇妙な実験」が行なわれていたのだ──。(※1)
※1「電磁気学的手法による短期的地震前兆の観測的研究の現状」(長尾年恭ほか 地震第59巻69-85 2006 )

 

 実験の詳細はこうだ。まず、全長4.5キロメートルにわたって敷設されたアンテナから、強力な発電機を使い0.28~2.8キロアンペア、1.2~32.1メガジュールという巨大な電力を地中に放電する。気象庁によると落雷が1回150メガジュールなので、規模の小さな雷を人工的に地上に落としたというわけだ。


 
 で、どうなったか? なんと、地震が発生したのだ! トータルで114回、地面への放電実験が行なわれたのだが、放電後から地震が起こり始め、2日後にピークとなった。計算してみると、発生した地震のエネルギーは放電に使われた電力のおよそ10万倍~100万倍だったという。

 

■電気で地震を引き起こす地震兵器?

ネパール大地震

ネパールで起きた大地震直後。こうした地震を人工的に引き起こせるなら、核兵器など目じゃない最強の大量破壊兵器となるが…… 。

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 キルギスでの実験結果が確かならば、人為的に地中電位を上げることで、投入した電力の10万倍~100万倍の地震を引き起こすことが可能ということになる。なお、キルギスではこの技術を「地殻変動深層電磁コントロールシステム」と名付け、愛知万博の時、パビリオンで展示したが、日本側は誰一人なんの展示かわからなかったという(※2)
※2「地震予知研究の国際動向」(EPSJ NEWSLETTER 2016年6月10日 第2号)

 

 放電によって地震を引き起こす地殻変動深層電磁コントロールシステム……地面に流した電力が巨大地震の引き金になるのだとすれば……これこそ地震兵器なんじゃないのか!? 

 

 実はこのキルギスでの研究を踏まえて、日本から東海大学などの地震学者がキルギスの地震研究所へ赴き、共同研究を行なっている。そこでわかりつつあるのは、小規模の地震なら電気の刺激で発生させることができることだ。そしてこの技術を利用すれば、大地震の発生する可能性の高いところへ電流を流し、地震のエネルギーを小出しにして巨大地震を防ぐということが可能かもしれないという。つまり、地震予知ではなく「地震防御」である。

 

「そんなこと言って、本当は地震兵器の存在を隠すためなんだろ! このDSの手先が!!」

 

……って、あのね、地震兵器ならロシアが日本の研究者と共同研究なんてするわけがないでしょうが。相手は旧・赤い帝国の“おそロシア”ですぜ?

 

■地震雷が巨大地震を発生させるのか?

地中で起きる雷が引き金となり、巨大地震が発生する?

画像:U.S. Air Force photo by Edward Aspera Jr., PD, via Wikimedia Commons

 地震が発生する時に、山や海が発光する「地震雷」と呼ばれる宏観異常現象が知られていた。実際、1965年から1970年にかけて起こった松代群発地震では、山が発光する姿が写真に収められた。これが世界で初めて撮影された「地震雷」だと言われる。

 

 また、1995年の阪神淡路大震災では、野島断層という地震でできた断層の地層が磁化していたことで、地震雷の存在が科学的に確認された(※3)。断層上に生えていた草木の根だけが黒焦げになり、粘土層が地下10メートルほどまで高電圧にさらされた時のように硬化していた(※4)。雷のような高電圧が地表近くの地中で発生したのだ。

※3「Possible evidences of earthquake lightning accompanying the 1995 Kobe Earthquake inferred from the Nojima Fault Gouge」(Geophysical Research Letters 25巻14号1998年7月15日)

※4「兵庫県南部地震で観察された宏観異常現象について(1)地震発光の化石!?」(地質ニュース523号 63-69ページ 1998年3月)

 

 さらに、関東大震災の時、目撃された地震雷は地震の6~12時間前に発生していた(※5)。松代群発地震の時も地震の前後というだけで、地震雷の発生には、かなり時間的な幅があったらしい。

※5「地震と電磁気異常現象」(J.IEE JAPAN VOL115.No9)

 

 地震雷はごく浅い断層などで起きる。キルギスでの実験結果を信じるなら、この地震雷が巨大地震の引き金ではないか? 地中電位の上昇は巨大地震の予兆などではなく、通説と正反対に、地震雷こそが地震を引き起こす元凶なのでは? 

 

 もしそうなら、現在の地震発生のモデルは大きく変わり、地震予知も根本から変わるだろう。宏観異常現象こそが重要になってくる。さらに未来には、もしかしたら本当に地震兵器ができるかもしれない! 不謹慎にもワクワクしてしまう、まさに地震発生のパラダイムシフトが起きるだろう。