■シナリオとキャラクターの相性がバツグン

サターン版「グランディア」より

 本作のキャッチコピーは「歴史に残る映画があるように、歴史に残るRPGがある」というもので、新作RPGのキャッチコピーとしてはどう考えてもハードルが高すぎるように思えますが、それだけの自信作であったのだろうという制作陣の意気込みが感じられます。

 本作の世界は完全ファンタジーで、土地ごとに生活様式が違ったり、売られているアイテムにも土地ごとに特徴があったり、住人の服装にもそれぞれに工夫が凝らされており、その世界観の作り込みはとても丁寧で、没入感は他の追随を許しません。

 では、あらすじを紹介します。

 かつてこの世界の冒険者たちは、さまざまな発見の先で「世界の果て」と呼ばれる巨大な壁によって世界が途切れていることを知ります。これによって人々の関心は冒険から遠ざかっていき、現代の人々は機械や蒸気での暮らしに興味を持つようになっていました。

 冒険家だった祖父・父親を持つ主人公のジャスティンは好奇心旺盛な少年で、そんな時代の中にあっても冒険家に強く強く憧れていました。

 そんなジャスティンの幼なじみで「監視役」の年下の少女・スーはある日、博物館の館長から紹介状をもらって「サルト遺跡」の見学に行きます。そこで2人は謎の女性・リエーテに出会い、失われた文明「エンジュール文明」の話などを聞かされたあと、詳しく知りたければ東に向かい「アレント」という地を目指すように告げられます。

 これをきっかけにジャスティンは冒険に出ることを決意するのでした。

 父の形見の「精霊石」を携えて……。

サターン版「グランディア」より、主人公・ジャスティン

 ここまでを聞くと王道的な展開ですよね。

 ちなみにアレントは地図には書いていません。もうワクワクしますよね。見たことはないけどなぜかありありと浮かぶ壮大なロマン、想像がつきそうでつかない先の物語、そして魅力的なキャラクターたち、この3本柱のおかげで決して陳腐ではなく、王道=普遍的ではなく、だからこそ安心して楽しめて、心を投影しやすくて、そして泣ける、そんな作品になっています。

 歴史に残る作品が作り上げてきた道筋を「王道」と呼ぶのであれば、このゲームは「壁」の向こうにも世界があると信じた少年が世界の謎に立ち向かう文句なしの「王道冒険活劇」でしょう。

 僕がこのゲームに心をつかまれたのは、あらすじでワクワクしてきた流れからジャスティンが船に乗って旅立つシーンです。ここはこのゲームでも屈指の名シーンと言ってもよいでしょう。

元ドクロのリリィこと、ジャスティンの母

 ジャスティンの母親・リリィはゲーム開始時は街の名物食堂「うみねこ亭リリィ」の経営者ですが、かつては海賊でした。そして父親は冒険者、ともなればジャスティンが冒険に出るのも時間の問題だったのかもしれません。

 ふだんから街でやんちゃをしては母親に叱られてばかりだったジャスティンは、リリィに心配をかけさせたくないと自分が冒険に出るということを告げず、こっそり家を出ます。

 そして、船に乗ろうとする直前、カバンの中に見慣れぬものが入っているのを見つけました。不思議に思い、取り出してみるとそれは、リリィが冒険者協会の会長に宛てた手紙でした。

 リリィはジャスティンの行動を察していたのです。

 そしてその手紙をこっそり読んでしまったジャスティンへのメッセージもそこにはありました。

 この文面はぜひプレイして読んでください。

 僕は号泣しました。

 ここからも分かる通り、このゲームはキャラクターの感情表現やセリフにとてつもないこだわりと熱量を感じる場面が随所に見られます。特に印象的なのは、モブキャラたちとの会話です。

 普通のRPGであれば、モブキャラたちの「セリフ」はあっても「会話」はあまりありませんよね。

 しかしこのゲームでは、街の住人たちとの会話にも彩りがあり、プレイヤーを飽きさせません。このこだわり、頭が下がりますね。

 街の雰囲気や住人たちの暮らしを表現する上で、彼らとの会話も欠かせません。それだけ世界観を形成する上で重要なことへの手抜かりはなく、ストーリーが難解ではないことも手伝い、ゲームの世界観にどんどんのめり込んでいくことでしょう。

モブキャラとの会話も見逃せない

 そして、先ほどから「王道的」「難解ではない」と話しているストーリーですが、これは冒頭でも述べた通り、陳腐というわけではけっしてありません。

 たとえばゲーム開始時に、街のガキ大将・ガンツと宝探しの勝負を挑まれ、彼の家の宝箱に「精霊の剣」が入っている!と言われるのですが、実際はもちろん本物の剣ではなくただのガラクタでした。

 しかし、このガラクタに「精霊の剣」という名がつけられているのが実は伏線になっているなど、世界観だけでなくシナリオもかなり周到に練られています。ほんとすごいんですこのゲーム。

 そしてみなさんが気になっているであろう「世界の果て」ですが、もし実際の世界にあったらどう感じるでしょうか?

 今の僕たちが世界地図で当たり前に地理を勉強できているのは、過去の偉人たちが大陸を見つけ記録に残してきてくれているからであるのはもちろんですが、もしも世界には「果て」があると教えられ、その世界地図を見せられたらそこに疑問を持てていたでしょうか。

 僕は「いや、そんな壁があるはずがない」と思えた自信はありません。きっと受け入れてしまったと思います。現実なら。

 しかし、ゲームであれば話は違いますよね。

 遮られているその大きな壁の向こうにはきっと何かがあり、そしてその壁は「何らかの意図」があって作られたものだろう、と思いますよね。少なくとも僕はそう思いましたし、そんな僕の心を奮わせてくれるジャスティンの言動でこのゲームの虜になりました。

 まだプレイしたことがない皆さんは、この壁の謎どう思いますか?

 ここまで出した情報量では解けるわけないのですが、少しだけ想像してみてください。グランディアはそんな想像をたくさんかきたててくれます。

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