■「美しい」って恥ずかしげもなく言いたい

 これはマジですごい作品にぶち当たりました。マジですごい。そうなんです。人はすごいものにぶち当たると語彙力がなくなるんですね。食レポもペラペラいろんなこと言ってるときほど普通なんです。

 本当に美味いもんはもう「美味い!」しか出てこないんです。

 最初はあー、青春ものだ、ジャンプの青春ものだもんなぁ、それはそれは青いんだろうなぁーってな感じで読んでいたんですが、とんでもない作品で。私が頭の変な大金持ちだったら大量に購入して目につく中高生に「メリークリスマス、これをお読みなさい」と無差別に渡して捕まっていたことでしょう。大金持ちでなくてよかった。

 しかしこれを少年ジャンプのWEB漫画でやってるのがもうすごい。攻めましたね! コーナーキックにオフェンスで参加してるゴールキーパーぐらいは攻めてます。

 今までの男性誌の恋愛ものって恋愛というよりはラブコメが多いんですよね。冴えない男の子が学校のいろいろなタイプの美女に惚れられるハーレム系の話とか(なぜか元気キャラは胸が小さく、おっとり系は巨乳が多い、なぜ?)がすごく多いんです。

 まぁそれはそれで楽しいんですが、少女漫画ほどの繊細な心理描写はないものが多いです。代わりにエッチなトラブルは大量に起きます。ねー、男子ってバカだよねー。

 でもこの『青のフラッグ』。恋愛や友情における心理描写が小説のように美しい。ふだんは恥ずかしくて使えない「美しい」という言葉を恥ずかしげもなく使えます。だって美しいんだもの。

 そして風景も素晴らしい。夏の通り雨のシーンなんてきれいすぎて、「あ、俺今ここに一緒にいるわ」って思ったぐらい。まるで夏の焼けたアスファルトに降る雨の匂いまで感じてくるような。

 さらに僕がこの漫画で好きなのは表情なんですよ。この漫画の登場人物って人の表情をするんですよ。

 は? 当たり前だろ? ってなってると思うんですが、人と人がしゃべってるときに笑顔だけど愛想笑いとか、ちょっと困ってるな、っていう微妙な変化あるじゃないですか。あれをちゃんと漫画でやってらっしゃるんですよ。あ、嘘ついた!とか、困ってるよね?って気持ちがすっごく分かるんです。

 それが成立しているからこそセリフなし、感情描写なしでも、表情の変化のみで読者に伝わる。だからこそ、登場人物ではなくまるで一人一人の「人間」を見てるぐらいの没入感がある。苦しさ、切なさがダイレクトに来る。喜怒哀楽で表情がコロコロ変わっていく様がリアルで、本当に全員この日本のどこかに存在しているんじゃないかと僕は思ってます。

 そして恋愛もそうなんですが、人間って一人一人いろんな物事に対する考え方も違うし、どれが正解っていうこともないですよね。そういうことに対して登場人物たちがまっすぐぶつかっていく。そのやり取りは全員が正しくて苦しくなる。漫画を読んでいるのに超上質の小説を読んでいるような気持ちにさえなります。

 とにかくこの漫画は刺さる刺さる。

 読みながらランダムで曲流していたらHYの『366日』が流れてマッチしすぎて37歳のおじさんですが、涙腺爆発しました。みなさんも読むとき気をつけてください。

 まずは1巻だけ手にとってほしい。そしたらもう止まらないはず。そして何度も読み返してしまうでしょう。

 初めて『青のフラッグ』を読んだとき、いろいろ少女漫画を読んできた僕が「あ、これは少女漫画だ」って思ったんです。なので少女漫画は読んだことがないけど、この『青のフラッグ』を読んで面白いと思ったのであればあなたはきっと少女漫画にもハマれるはず。さぁ私の手を取って。大丈夫、怖くないよ。一緒に少女漫画の世界に飛び立ちましょう。

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