■何者にも追われない「無敵の夏休み」をもう一度…!

プレイステーション版『ぼくのなつやすみ』オープニングより

 大人になると夏休みをとれたとしても、終日家でゴロゴロしたり、「せっかくの休みだから」とそんなに行きたくもない旅行に無理やり行ったりなど、なんだか伸び伸び過ごせなかった、ということも往々にしてあるかと思います。それは、小学生の頃に味わった「あの夏休み」ではないですよね。

 祖父母の田舎に帰って、ふだん見慣れない景色にワクワクしながら日々を過ごし、寝る前に絵日記を書き、ときには同年代のいとこたちと無理やり宿題をやらされるハメになる、なんて夏休みを過ごした方も多いかと思います。本作にはそんな「淡く爽やかで懐かしい夏休み体験」がこれでもかとぎっしり詰まっていますよ。

プレイステーション版『ぼくのなつやすみ』プレイ画面

 本作の舞台は1975年のとある田舎「月夜野」。

 モデルになったのは山梨県の道志村です。作中の雰囲気を味わいたい方は、この夏行ってみても良いかもしれませんね。

 母親が臨月を迎えたため8月1日から31日までの1か月間、親戚の家に預けられた9歳の主人公・ボクが自由気ままに生活していくという物語で、ゲームをクリアするために「しなければならないこと」は特にありません。

 エンディングは複数あり、ベストエンディングの条件も一応ありますがそんなことは気にしてはいけません。まずはただただ、夏休みを過ごしてみてください。

 ゲーム開始時は親戚の家周辺しか回れませんが、プレイヤーが探索していくことで少しずつ世界が広がっていきます。この興奮は何物にも代えがたい素晴らしい体験です。

 たとえば子どもの頃、探検と称して公園の奥にある山に登ってダンボールで「秘密基地」を作ったり、公園や街並みが見下ろせる抜群のロケーションを発見したりした経験はないでしょうか。

 そのときの達成感やワクワク感を大人になった今、忘れかけていませんか?

 プレイヤーの行動により世界が広がっていくゲームは数多くありますが、こんなにダイレクトに「淡く青い思い出」をくすぐってノスタルジーに浸れるゲームはそうありません。

 本作は、虫を集めて標本にしたり、川で魚釣りをしたり、近所の子どもたちと「虫相撲」で対決したりと様々な体験ができますが何をするのもプレイヤーの自由です。

 しかし、いくら自由と言っても朝から晩まで自由に遊びまわれるわけでもありません。

 場所が切り替わるたびに時間が経過していくシステムとなっており、夕方になるとおじさんが「はい、今日の遊び時間は終了」と迎えに来て晩ごはんの時間となります。

トンカツやらロールキャベツやら、おばさんの作る晩ごはんメニューはどれも美味そう

 ちなみにこのお世話になる親戚の空野一家との交流はすべてがほのぼのしていて「こんな親戚いたらいいな」が詰まっています。みんな優しくて良い人だし、2人の姉妹(1人の兄も忘れずに)との物語はとてもリアルでグッときます。だからこそ、夏休みが終わってしまうときの切なさと言ったら……。

 晩ごはんが終わるとまたしても自由時間となりますがくれぐれも夜更かしは厳禁です。良い子は絵日記を書いて早く寝ましょう。ラジオ体操に寝坊してしまいますよ。

 こんなふうに、田舎のみんなと交流したり、冒険したりして夏休みを過ごしていくというゲームです。想像しているよりずっと自由でずっと感動的で、ずっと面白いのでぜひプレイしてみてください。

 どんなことにも必ず「始まり」と「終わり」があるのだと実感させてくれます。

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5