梶裕貴が一瞬でキャラに命を吹き込んだ匠の技【『グッバイ、ドン・グリーズ!』いしづかあつこ監督インタビュー②】の画像
『グッバイ、ドン・グリーズ!』より(C)Goodbye,DonGlees Partners
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まもなく公開されるオリジナル劇場長編アニメーション『グッバイ、ドン・グリーズ!』。いしづかあつこ監督にタイトルに込めた想いやロウマ役・花江夏樹について語ってもらった第1回に続き、今回はツッコミキャラでもあるトト役・梶裕貴のエピソードを中心にインタビュー。『進撃の巨人』『七つの大罪』と多くの代表作を持つ実力派の彼がアフレコで見せた技や、リアルな15歳を描くために監督が行ったディレクション、さらに男子3人を主人公にした理由など、様々な話を聞いた。(全3回)

 

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トトの膨大なセリフと目配りをさばききれる人

 

 

(C)Goodbye,DonGlees Partners

「他のお二人もそうなんですが、まず上手いんですよね。言葉にしてしまうとたった一言なんですが、それに敵うものってなかなかないんですよ。さらにトトのキャラクターを考えると、ツッコミ役としての器用さも兼ね備えてないといけないので、この3人の中で一番忙しいんです。ロウマとドロップ(CV.村瀬歩)の両方に気を配って、周りを見ながらバランスを取って、なおかつ全力でしゃべり続けなくてはいけない。特に前半はあっちもこっちもツッコまなきゃいけないので、忙しかったと思いますよ。その忙しさをさばききれる人というのは、トト役を選ぶ上で重要なポイントでした。なおかつ技量があって、お芝居がうまくて少年ならではのしゃべり方ができる人となると、やっぱり梶さんだなと」

 

――“少年ならではのしゃべり方”といいますと…?

 

「花江さんのお話でも言ったように、ロウマもトトもドロップも、基本的にはバカなんです(笑)。だからキャストの皆さんには、深く考えずにしゃべってほしい。ただそれって、お芝居する側にとっては難しいことなんです。感情を込めれば込めるほど、お芝居としては際立つはずですから。『来たボールをそのままたたき返すような声の出し方をしてください』と言われたら、声に感情が乗せられなくなるはずなんですよね。だけどこの3人は脊髄反射でしゃべっているのに、セリフ一つひとつの感情がすべてまっすぐ伝わってくるという、不思議な現象を起こせる技量の持ち主、それをやってのける方々なんです」

 

「君たち、中二病を患ってくれないか」(笑)

 

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――相反する要求を成立させられる方々なんですね。他にキャストの皆さんに出された全体としてのオーダーというのはありましたか?

 

「全体でのオーダーとしては、やっぱり大人っぽくならないようにひたすら子どもでやってほしい、というところですね。でも子どもといっても、アニメでいうところの幼稚園児のような子どもっぽさではなくて、リアルな男子中学生くらいの幼さ。彼らは15歳16歳の高校1年生ですが、高校生といってもついこの間まで中学生だったわけじゃないですか。アニメで高校生というと、基本的にはもっと大人びたキャラクターになりがちですが、つい先日まで中学生だった男の子がそこまでしっかりしてないよねって。だから皆さんには、中学生くらいのつもりでやってくださいとお願いしました。『君たち、中二病を患ってくれないか』と(笑)。それくらいが意外とちょうどいいんですよね。ただトトに関しては、ロウマより一歩先を行ってなきゃいけないのに中二病を患ってくれとお願いしたので、きっと梶さんは困惑されたと思います」

 

――実際にトトを見ていると、お兄さんぶっているけど未成熟なところもあって、そのアンバランスさが思春期のリアルな姿と感じられました。今のお話を伺うと、梶さんのバランス感覚が非常に優れていることが改めてわかります。

 

「あと実際に梶さんのアフレコを聞いてすごいなと思ったんですが、アニメーションの絵には、セリフとセリフの合間に口を閉じて表情を変える瞬間というのがあるんですね。ご覧になる方が気付くか気付かないかというくらいの一瞬のことなんですが、梶さんは鼻をすする音などでその間を埋めるんです。そうすると、表情変化のためにちょっと目を閉じたり口をすぼめたりした顔が、鼻をすする表情に変わる。そういう細やかなキャラの活かし方が非常に巧みだなと思いました。まさに命を吹き込むというか、そのキャラクターのクセを一瞬で生み出してくれました」

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