梶浦由記が何十年続けても飽きない音楽の魅力と魔力【劇場版『DEEMO サクラノオト』主題歌制作・梶浦由記インタビュー③】の画像
梶浦由記が何十年続けても飽きない音楽の魅力と魔力【劇場版『DEEMO サクラノオト』主題歌制作・梶浦由記インタビュー③】の画像

現在「WEB声優MEN」では、大人気音楽リズムゲーム「DEEMO」を映画化した劇場版『DEEMO サクラノオト -あなたの奏でた音が、今も響く-』の公開記念リレーインタビューを展開中。第1弾は『鬼滅の刃』などの音楽も手掛けるヒットメーカー・梶浦由記インタビューだ。最終回となる今回は、梶浦が「絶対にやめられない!」と音楽の魅力に打たれる瞬間や、次世代に向けたメッセージを伺った。(全3回)

 

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作曲家の頭の中だけの“妄想”が“音楽”になる瞬間

 

――お仕事をされる上で、梶浦さんがもっとも大事にされていることは何でしょうか?

 

自分の心がちゃんと動くものを出すということは、ずっと心掛けています。例えば悲しい音楽なら、「自分が悲しくなる曲でなければ、聞いた人も悲しくならないだろう」と思いますし、「こうしておけばいいだろう」という作り方をすると、自分の中でもフラストレーションが溜まっていくんです。だから自分の心がきちんと動くというのは大事なことですね。何度でも繰り返し作って、ちゃんと自分の心に響く音楽ができてから世に出すというのは、これからも絶対に守り続けていきたいラインです。

 

――では、お仕事で喜びを感じる瞬間は?

 

私はやっぱり、生楽器の演奏がすごく好きなんですよ。自分一人でシンセサイザーで打ち込みをしていくのも好きなんですが、それだと自分の理想を超えることはないんですね。「こういうものを作りたい」という理想があって、そこに届いて「よし、できた!」と気持ちよく終われる。それはそれで楽しいんですが、自分が書いたメロディーをプレイヤーの方に奏でていただいたときって、自分の想像を超えていくことがあるんです。「やばい、こんなにかっこよくなっちゃった! これは想定してなかった!」みたいな。だから一流のプレイヤーさんたちに自分の音楽を奏でていただく瞬間が、仕事をしていて一番好きなときですね。

作曲家の頭の中にある音楽って、机上の空論でしかない。本当にただの妄想なんですよ。その妄想が、スタジオで一流のプレイヤーさんたちが奏でてくださると、ちゃんと音楽になる。その瞬間って、何度やってもやめられないくらい、本当に楽しいんです。

 

――譜面から音楽が立ち上がっていく瞬間、誕生の瞬間ですね。

 

劇伴であればそこに辿り着くまでに何十曲も書いていて、「もう音楽やめてやるー!!」なんて気持ちになっていることもあるんです(笑)。だけどあの瞬間に、「音楽やめるなんてとんでもない! もっともっとやりたい!」という気持ちになるんですよね。

 

歌はどんな楽器よりも人の耳を奪う、素晴らしい劇薬

 

――では歌、人の喉という楽器は、梶浦さんにとってどのような存在ですか?

 

小学生の頃は「オペラ歌手になりたい」と言っていたくらいなので、根本的に歌が好きです。でも私は、歌を楽器だと思ったことはなくて、どちらかというと信号に近いと思ってるんですね。

 

――信号、ですか?

 

声って、どんなときでも人の耳を持っていってしまう、非常に危険なものだと思うんですよ。他の楽器でどんなに素晴らしいプレイをしていても、声が入っていると人間の耳は絶対に声に集中してしまう。それって、他の楽器とあまりにも違いますよね。だから歌は安易に扱ってはいけないもの、「人の耳を奪うぞ」という覚悟の上で使うべきものだと思ってます。いわば劇薬ですね。素晴らしい劇薬です。

 

――今回、Hinanoさんという原石と『nocturne』という楽曲を生み出されたわけですが、これまで梶浦さんが出会ってこられた原石の方々で印象深い方はいらっしゃいますか?

 

皆さん、印象深いですね。歌い手さんは本当に誰もが違っていて、同じような歌を歌う方は世界に二人といませんから。楽器であればすごく似ているということは考えられるし、ものすごく完璧なプレイだったら間違ってしまうかもしれない。でも歌は間違えようがないですよね。だからみんな違いすぎて、比較のしようがないんです。

 

――今回のように新人の方とお仕事されるときの面白さや喜びというのは、どんなところでしょうか。

 

新人の方って、これからがとっても楽しみですよね。そこがやっぱり新人の方とお仕事する楽しさかなと思います。でもこの世界って正直な話、とても難しい世界でもあります。私はこれからHinanoさんを育てていく立場ではなく、陰ながら応援するという形になりますから、彼女が幸運や色々なものに恵まれるように、楽しく音楽の道を歩めるように祈るばかりですね。

素晴らしい歌い手さんって、私、世界の財産だと思うんです。素晴らしい声を持っている人が一万人に一人いたとしても、その声に見合う努力を重ねながら10年20年と歌い続けられる人は、さらに一万分の一なんですよ。だから素晴らしい声の方に出会うと、「あなたは世界の財産なのだから、できるだけ長く歌をやめずに、楽しく音楽の道を歩んでください」と祈らずにはいられません。

 

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