振付・宝満直也インタビュー(3)「僕にとって“踊ること”と“振り付けること”は本質的には同じ」/アニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』特集の画像
『ダンス・ダンス・ダンスール』モーションキャプチャー撮影の様子

「なんで男がバレエ?」と友人たちに言われても、そこにしかない爆発的な生命の輝きに魅了され、厳しいバレエの道を歩み始める中学2年生・潤平(CV.山下大輝)。彼の青春を熱く描くジョージ朝倉の同名漫画を原作とする『ダンス・ダンス・ダンスール』で、「振付」を担当した宝満直也のインタビューも、今回が最終回だ。ダンサーとして、そして振付家として、バレエと向き合い続けている彼自身が感じる“バレエの魅力”とは何なのだろうか。(全3回)

 

※※※

 

それは人の価値観や人生をも変えうるものになる

 

――潤平はブランコの“生命の爆発”と言うようなエネルギーを目にして、バレエに魅了されますが、宝満さんが現在の道を志されたきっかけは何でしたか?

 

現在の僕は“ダンサー”というよりは、“振付家”であることに重きを置き始めているので、そこについてお話しさせていただきます。初めて振付をプロのダンサーにしたのが、新国立劇場バレエ団の、若手振付家育成プロジェクトでした。その時は振付をしたいというよりは、「もっと舞台で踊りたい!」という思いで自分に振り付けたという感じでした。

僕はバレエを本格的に始めたのが遅いのがコンプレックスで、思うように身体を動かせないことで悶々とした日々を過ごしています(笑)。そんなときに優秀なダンサーに振付を踊ってもらうと、ずっと僕が「そうそう! そう踊りたかったの!」と思っていた踊りを体現してくれます。なので僕の場合は、振付を渡すというよりは“思いを託す”という感覚が近いかもしれません。そしてそれが振付をする原動力の一つになっていると思います。だからやっぱり、自分がめちゃくちゃ動けるダンサーだったら、振付はしてなかったと思います。自分で動いてしまえばいいわけですから。

 

――プロのダンサーとして10年以上ご活躍され、さらに振付家という新たな道も歩んでいる今、宝満さんはバレエの魅力をどんなところに感じていますか?

 

よく「踊ることと振り付けることの両立は大変じゃない? どう切り替えてるの?」と聞かれることがありますが、何も切り替えていません。僕にとって“踊ること”と“振り付けること”は、本質的には同じです。何を感じて、どう生きているか。それを役柄を通すか、作品を通すかの違いであるだけという気がします。突き詰めればその人の生き様が見えてくる。それを潤平はブランコに見たのではないでしょうか。

ブランコが潤平の人生を変えてしまったように、余分なものを徹底的に削ぎ落とした、舞台に立っている人間の“生き様”のようなものが見えたとき、それは人の価値観や人生をも変えうるものになると信じています。理性がすっ飛ぶような感覚。その感覚が忘れられないから、また舞台に立ちますし、これからも作品を作り続けたいと思っています。

 

――今回の「アニメーションの振付」という経験は、宝満さんにとってどのような経験になりましたか?

 

原作があって、映像の編集の方がいて、音楽の監修の方がいて、監督がいて、それぞれのプロフェッショナルの方々が知恵を出し合って、良いものを創ろうとしている現場に関われたことはとても刺激的でした。私事ですが、今年からフリーランスのアーティストになるので、そういった他ジャンルの方の感性に触れられる機会はとても新鮮ですし、貴重です。今後の振付活動に活かせそうな発見がいっぱいあった、とても幸せな経験でした。

 

――完成した映像をご覧になった感想、そして読者や視聴者の皆様へメッセージをお願いします。

 

振付として携わらせていただきましたが、それ単品でも十分公演ができてしまうんじゃないかというほど満足のいくダンスシーンになりました。ジョージさんをはじめ、一流のクリエーター達のこだわりがぶつかり合って、良い化学反応が起きていると思います。観ていただいた方のバレエの見方が、良い意味で変わってしまうような作品になったら幸いです。

 

【PROFILE】
宝満直也 ほうまん・なおや
ダンサー、振付師。2008年新国立劇場バレエ研修所に入所し研鑽を積んだのち、2010年新国立劇場バレエ団に入団。古典作品のレパートリーに出演しながら、コンテンポラリー作品では、ソリストとして抜擢されデュオやソロなどの重要なパートを踊る。新国立劇場の振付家育成公演では多数振付を発表。
その後NBAバレエ団に移籍し、2017年「海賊」「白鳥の湖」の振付を担当。2020年には大和シティー・バレエにて「美女と野獣(全幕)」を世界初演し、好評を得る。その他にも新国立劇場バレエ研修所、朗読劇に振り付けるなど活動は多岐にわたる。
Instagramアカウント @homan_babacchi

 

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