「鈴村健一 LIVE TOUR 2022 "ぶらいと"」4月2日豊洲PIT公演を振り返るオフィシャルレポートが到着!の画像
鈴村健一
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鈴村健一の音楽は、いつも私たちに“生きる”ことへの気づきと、歩み続けるための力をくれる。2022年2月、大阪・名古屋・横浜の3都市をめぐってきたツアー「鈴村健一 LIVE TOUR 2022 "ぶらいと"」。そのファイナルを飾る追加公演が、4月2日、東京・豊洲PITで開催された。

 

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鈴村にとって、ワンマンライブツアーを行うのは「鈴村健一 Live Tour 2017 "NAKED MAN"」以来、約5年ぶり。有観客ワンマンライブは、2019年6月に河口湖ステラシアターにて2日間行われた「鈴村健一 満天LIVE 2019 〜ぼくらの前夜祭・ぼくらの後夜祭〜」以来、約3年ぶりのことだった。彼が長年ホストの一人を務めている音楽フェス「おれパラ(Original Entertainment Paradise)」シリーズも、コロナ禍において2年連続で無観客配信ライブが続いていることを思うと、アーティスト・鈴村健一とファンが生のステージをやっと共有できたこの“ぶらいと”ツアーは、言葉では言い表せないほど、待ち望まれていたものだ。追加公演の当日も豊洲PITの開演前は、びっしりと椅子が並び満杯になった客席から、オーディエンス一人一人の静かな熱気があふれ出していた。


開演の18時。ビッグバンドジャズテイストの会場BGMが途切れ、薄明かりの客席を満たすようにトランシーなデジタルミュージックが流れ始める。巻き起こる大きなクラップ。ステージが暗転して、ラジオボイスのアナウンスが流れ、スタンバイしていたバンドがハードでロックなセッションをスタート。青いライティングと同期するように客席も一斉に青いペンライトの光=“インテンションブルー”を揺らし、多層構造になったステージセットの上段に、片手を大きく突き上げた鈴村が走り込み、雄叫びを挙げる。

「豊洲PIT―! さぁ、天に手を掲げろ! 会場を一つにするぞー!」

待ちに待ったオープニングナンバーは、音楽を共にできる喜びを遊び心ある歌詞に込めた「あいうえおんがく」だ。曲中ではSASSY(Dr)、工藤 嶺(B)、菊池亮太(Key)、バンマスの宮崎 誠(Gt)がファンキーでグルーヴィーなソロを奏で、鈴村の「ファイナル行くぞー!」の掛け声にますますヒートアップする。初っ端からハイテンションなセットリストは、「さぁ手をかざせ、一緒に行こう!」と呼びかけられた「All right」から「魂を呼び覚ませ!」と訴えかけた「ミトコンドリア」へ。いつものライブならここまでの3曲はどれも、オーディエンスと声を交わす一体感が味わえる人気のキラーチューンだが、このコロナ禍では観客は声を出せない。だからこそ鈴村は、1曲1曲ごとにオーディエンスの心の声を代弁するように雄々しく声を張り上げ、伸び伸びと力強い歌声を真っ直ぐに響かせる。肌触りのいいフェルト生地のように強い芯をまろやかに包み込む、鈴村の安定感のあるボーカルはこの日も健在だ。

 

会場のオーディエンスと「MUSIC ON! TV(エムオン!)」の生中継カメラに向けて挨拶し、「ツアーもついにここでファイナルになります、ありがとう! 1億2000万人も集まってくれて」と、ジョークを交えながら感謝を述べる鈴村。2月からツアーを一緒に回ってきたバンドを改めてファンに紹介しながら、ユーモラスでフレンドリーな空間を、巧みなおしゃべりでも構築していくのも彼らしい。そして、声を出せない客席の状況に触れつつ、「僕は、このツアー決めております。いつも通りやります、ここからは。みんなに振れるものは振ります」と宣言。「声は出せなくても心で言っちゃって!これが伝わるのよ」「一つになりましょう!心を繋げましょう!」と呼びかける。続くブロックはクールなナンバーが2曲。工藤のクリアなスラップベースとワウの効いた宮崎のギターがアーバンでソウルフルなサウンドに熱を込めた「フランケンシュタイナー」、客席の白いペンライトの波にホワイトの美しいライトが降り注いだハードチューン「シロイカラス」が届けられた。

そして鈴村は、コロナ禍に制作されたアルバム『ぶらいと』を振り返る。完成した時は「暗い」と思われるのではと不安だったが、アルバム楽曲を歌ったこのツアーを経た今は、聴けば聴くほど自分が込めた「前に進んで行こうよ」というメッセージを感じられると言い、アルバムを聴いて感じることは人それぞれではあるが「聴き続けたり、ライブで音楽を披露すると、また(楽曲が)進化していくことを実感しています。ツアーっていいなと思ってます」と真摯な言葉を伝える。そしてこのツアーでは「自分がやってみたかった演出」ができた、それを「自信を持って皆さんに楽しんでいただきたいと思います」と語って、新しいブロックへの扉を開いた。

 

青い光が放たれたステージ上段で、スポットライトを浴びた鈴村が手に握った砂をサラサラと下に落とすと、『ぶらいと』のオープニングナンバー、インストゥルメンタルの「いとの予感」が流れ、その手の映像は後ろの壁全体を覆うスクリーンのサンドアートへと切り替わり、そこに砂絵で描かれたのは3人の人物の姿だ。そんな幻想的なビジュアルを断ち切るように、すっくと立った鈴村が拳を差し出して、ためらいを超えて新しい未来を描けと歌う『ぶらいと』の2曲目「開け!」が力を込めて歌われる。そしてまたセットリストの合間を縫うように、温もりを感じるサンドアートが、3人の人物の未来への想いを実現する姿、過去の悲しい思い出を未来への力へと変える姿など、一人一人の物語を映しだしていく……。そう、鈴村が語った演出とは、アルバム『ぶらいと』の楽曲をサンドアートで描かれるストーリーと融合し、アルバム全体に込めた「前へ進もう」という想いを、さまざまなビジュアルと共に提示するものだった。

 

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