バレエ演出・大谷肇インタビュー(2)素晴らしい動きと美しい音楽という最高の食材/アニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』特集の画像
第5幕場面カットより(流鶯)

バレエをエモーショナルに描くアニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』。本作の中心となるのは、14歳というかなり遅いタイミングでバレエを始めた主人公・潤平(CV.山下大輝)と、幼少期から厳しい英才教育を受けてきたバレエの申し子・流鶯(CV.内山昂輝)という、対照的な二人だ。演出を手掛ける大谷肇は彼らをどのように捉え、描いているのか。 インタビュー第2回となる今回は、“動き”と“音楽”という要素を軸に話を聞いた。(全3回)

 

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バレエの正しさと潤平の個性のバランスを見極める

 

第2幕場面カットより(潤平)

――前回、原作を一度読んだだけで「ぜひやりたい!」と思われたというお話がありましたが、どんなところに魅力を感じたのでしょうか。

 

やはり僕が惹かれたのは、絵の力、漫画の表現です。本当に直感に訴えかけるような、理屈ではわからない情熱や情念みたいなものが伝わってくる。喫茶店で読んでいたんですが、そういう絵がいくつもあって、1巻からずっと泣きながら読んだくらいです。あのときは本当に、胸を撃ち抜かれたような感覚がありました。

さらに読み進めていく中で感じたのが、登場人物たちの覚悟というか、表舞台に立つ人の考え方や哲学。僕はそういうものが現れる瞬間が好きなんですが、それって作者の哲学だと思うんです。だから『ダンスール』なら、ジョージ先生が作品を世に出すときの覚悟が滲み出ているように感じられる。今回アニメ化される5巻まででなく、6巻以降もそういうシーンが目白押しで、何度も読み返すくらい愛読していますね。

 

――各キャラクターをどのように捉えているか、そのキャラクターらしい動きとは何か、といったお話もぜひ伺いたいと思います。まずは主人公の潤平からお願いできますか。

 

潤平はある意味、一番難しいキャラクターです。なぜかというと、こうすればいいという答えがないので。話が進むに従って、彼の“身体を使ったアーティスト”とでも言うような部分がどんどん先鋭化して、際立っていく。もちろん主人公ということもありますが、一つひとつの踊りに情熱や葛藤があり、その感情を表すことが必要なキャラクターなんです。例えば2話ラストの路地で潤平が踊るシーンでは、モーションアクターの井福さんがとても美しく、正しく踊ってくださっているんですが、正しすぎてしまうと潤平の場合は個性を殺しかねない。そのバランスが非常に難しかったですね。

 

――確か2話では、都(CV.本渡楓)が潤平に手を差し伸べる公園のシーンも、大谷さんが担当されたシーンでしたね。

 

僕が最初に原作を読んだときに引き込まれたのが、都のそのシーンなんです。まさか自分がやれるとは思っていませんでしたが、自分がコンテも演出も担当できて、本当に嬉しかったですね。あれがこの作品での僕の初仕事のようなもので、まだダンスの知識も乏しくて掴めていない部分もありましたが、一番好きなシーンだったので、その気持ちを柱にして描けたかなと。自分でも気に入っているシーンです。

 

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