「やい 早く 返事をしねえか」が心を掻きむしる

 

叙情的な風景をとうとうと語る『星、夢』(寺田寅彦)から、オリジナル曲の『波紋』で、ますます観衆を彼らのディープな音世界に引き込んでいく。気づけば、神尾と間宮の衣装は白から真逆の黒い衣裳へ変貌し、新たな世界への誘いを予感させる。その黒色が赤い照明によって昏く浮かび上がり、暴力と狂気、混迷と嘆きが始まる。高見順の『死の淵より』だ。「やい 早く 返事をしねえか」という挑発的ながら、切実でもあるセリフのアンビバレンツさが、心を掻きむしる。『邪宗門』(北原白秋)ともまた違う感情を揺さぶり、これまでの作家、そしてそれを語り、騙る彼らの表現力には驚くしかない。

 

 

 

続く『夢と現実』(与謝野晶子)は、リフレインの中で間宮の息遣いが耳を打ち、ポップさも共存する作品である。この緩急こそKATARIの素晴らしさだ。聞き惚れる間もなく、スモークが漂う中で子どもたちに柔らかな声で語りかける神尾の声に、不思議と楽しい気分になってしまう。不思議な感情のゆりかごに揺さぶられながら、楽曲は『ゆづり葉、山の歓喜』(河井酔茗)へと転じていく。

 

目の前に射す一条の光を神尾が見つめたのは、立原道造による『暁と夕の詩』の最中だった。朝と夜、そして夢。めくるめく日々の循環の中で、自分自身の自我と対峙する「僕」を浮かび上がらせる神尾。詩の普遍的なテーマを現代的な音楽で彩色し、人々の心に染み渡らせ、中盤が終わろうとしていた。

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