89年に生まれたグラフィック・ノベル『The Sandman』は、映画にもなった『バットマン』や『スーパーマン』で知られる出版社・DCコミックスで、夢と物語と想像を司る不死の王・サンドマンが主人公で、壮大な彼の旅を描いていくストーリーだ。本作が、世界最大級のオーディオエンターテインメントサービス「Amazonオーディブル」に登場。現在配信中の日本語版で主人公・サンドマン役を務めるのは森川智之。前編では、トム・クルーズの日本語版吹き替えはもちろん、『クレヨンしんちゃん』、『鬼滅の刃』と数々の代表作で知られる森川が挑んだ、新たな境地に迫る。

 

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「自分自身の内面をより出していった」

 

――本作のオファーがあった際のお気持ちを教えてください。


最初、事前に企画を説明いただきまして、内容が素晴らしいし、「Amazonオーディブル」自体が初めてだったので、声優として“これはやらないといけない”という使命感が湧き出たとともに、光栄だと思いました。


――「Amazonオーディブル」にはどんな印象をお持ちになられましたか。


僕自身、洋画吹き替えをかなり長くやっているので、企画内容には親近感がありました。今回の『The Sandman』に関しては、原作に忠実な英語版の原音があったんですね。その演出の意図をうまく表現することには気をつけました。


――演じられた、サンドマンとはどんな人物だと思われますか。


彼は復讐に因われた男で、物語はそこからのスタートです。やがて、自分の国をもとに戻すための長い旅が始まるんですよね。そこで、彼の王国の主たるプライドとか、人間性を表現していかないと単なる音声になってしまうとも思い、凛とした雰囲気を出したいと思ってました。これまでの僕のキャリアではあまりなかったキャラクターを作れたと思います。たとえば、僕はよくツヤのある音、よく通る音を求められるのですが、それとは根本が違うんですよね。シンプルに言えば、生々しくてシブい声というか。そこは自分自身の内面をより出していくような気持ちで挑みましたね。

 

「音のみだからこそ、細かい表現を詰め込んだ」

 

――アニメや吹き替えのお仕事とは違うアプローチだったんですね。


そうですね。音だけの作品ゆえに、細かい芝居を入れ込むこともできました。映像のある作品で、そのビジュアルや映像そのものが派手だと、それに負けないように声を出してほしいという演出があったりするんです。だけど、今回は純粋に音のみなので、細かい表現を濃厚に詰め込みました。


――収録現場は大変そうですね。


これは僕に限らずですが、原音と芝居の間を同じものにしなくてはならないことが大変でした。あとは“尺の厳しさ”みたいなものがあり、英語に対して、日本語が短くても長くてもダメなんです。吹き替えの世界だとそのあたりはファジーなところもあったりするのですが、今回はそうもいきませんでした(笑)。


――収録はどんな雰囲気で進んでいかれましたか。


いままでにないやり方でした。通常はマイクの前にモニターがあって、アニメなら絵、洋画なら実写の映像が流れるのですが、今回は音の波形が出る。それを見ながら、ヘッドフォンで原音を聞きながら、自分のお芝居をするということにまず慣れないといけませんでした。だから最初は全然収録が進まなかったんです。


――英語の原音に、テンションを合わせるのは大変だったのでは?


それはそこまで難しくなく、原音のテンションを踏襲するという感じでした。音楽もSEも劇場用映画のような音で迫ってくるし、心を踊らせながら演じました。


――音響監督さんとはどんなやりとりをされましたか。


音響監督は、なかのとおるさんという方で、アニメなどで長くご一緒してるので勝手知ったる仲なのですが、今回のような作品はお互いが初めての体験でもあって。そこは話して調整しながらできたのが良かったですし、関係性があったからできたことですね。細かいニュアンスや息のアドリブをちゃんと入れていきました。

 

「今井翼さんの声の魅力はずっと聞いていられるところ」

 

――共演された今井翼さんの声の魅力はどんなところだと思われますか。


今井さんの声はずっと聞いていられるんです。ナレーターとして彼が物語を進めていくわけですが、自分の立ち位置を理解してらっしゃるゆえの没入感があるんです。作品の中でヘンな色気や、ヘンな我を出す人っているのですが、それがまったくない。彼のプロフェッショナルたるところで、立ち居振る舞いもすごく良いし、男として惚れちゃうところがありました。
良くない例ですが、ナレーションで物語が盛り上がってくると、すごいトーンを上げてくる方がいますよね。僕などはそれを聞くと“ナレーターも登場人物の一人なのかよ!”ってなる(笑)。でも、今井さんの声ってすごく心地いいから、そうなることがないし、ナレーターとして稀有な存在感を放っていました。


――一方で、サンドマンの姉のデス役を演じた、南沙良さんの魅力は?


南さんはとても透明でピュアなお芝居ですよね。女優さんならではというか、やはり内面をしっかり表現されようとしている方でした。そこは彼女のアプローチを楽しみました。僕自身、声優はもちろんですけど、役者さんやタレントさんなど、いろんな方とお仕事をさせていただくことも多くて。お互いを刺激し合える人と一緒にやらせていただくのはすごく楽しいですね。

 

「切り替えが出来ないと、長く仕事を続けることができない」

 

――声優と役者の方の違いみたいなものを感じられることもありますか。


ありますね。声優が持ってないものを持ってる方々ですから。たとえば、お芝居の入り方ということがあります。これは役者さん、声優さんでみんな違うし、集中の仕方も違いますよね。とくに役者さんは、ある程度役を作って現場に入る。けれど、僕ら声優はスイッチを入れるように役に入っていく。僕は役者さん特有の空気の作り方というのものも好きですね。僕らは仕事のスタイル的にも切り替えが出来ないと、長く仕事を続けることができないんです。


――長いキャリアを築かれているからこその視点ですね。


役者さんが、一つの役にじっくり向き合っていることに対しては羨ましさも感じるんです。一方で、今井さんや南さんも、いつも活動されているフィールドとは違うので大変だったとは思います。それでいうと、天地(セリフの冒頭と末尾)を原音に合わせるのは確かに大変だったりしましたが、お芝居の構築は自由にやらせてもらえたので、すごく楽しかったです。


――とくにどういったところに楽しさを?


僕らの世界では、単独のセリフよりお互いに掛け合いがやっぱり楽しいわけです。あとは、尺としてはもちろん調整すれば噛み合うのですが、距離感や温度感みたいな内面が噛み合うかどうかはわかりやすく演技力の問題なんですよね。ピタッと噛み合う瞬間って独特な気持ちの良さがあって、うまく表現できないけど、腑に落ちる瞬間があるわけです。あといろんなことを考えながら僕らは芝居をするわけですが、考えなくても噛み合う瞬間がある。そこに至るまで考えを尽くさないといけないんだけど、そのうえで噛み合うと気持ちいいんです。それは、この役をこの人はこう演じるんだなと、誰かのことを理解する気持ち良さなのかもしれません。

 

後編に続く!

 

PROFILE
森川智之
もりかわ としゆき
1月26日生まれ、神奈川県出身。1987年に声優デビュー。以降、人気声優として第一線で活躍を続ける。洋画の日本語吹き替え版ではトム・クルーズ、キアヌ・リーブス、アダム・サンドラーなど多数の俳優を担当。近年のアニメーションの代表作に『クレヨンしんちゃん』(野原ひろし)など。

 

《作品詳細》
『The Sandman (Japanese Edition)』
好評配信中
著者:Neil Gaiman, Dirk Maggs
出演:今井 翼 森川智之 南 沙良 井上 喜久子 榎木 淳弥 大川 透 小柳 基 佐倉 薫 佐藤 元 塩屋 浩三 高乃 麗 野坂 尚也 日野 聡 八巻 アンナ 渡辺 菜生子
https://www.audible.co.jp/sandmanjp

 

《Audible(オーディブル)について》
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