内海賢太郎×榊原有佑監督『その声のあなたへ』対談インタビュー〈後編〉/レジェンド声優・内海賢二の生きざまと「芸道」とは?の画像
©映画「その声のあなたへ」製作委員会

アニメーションの声優はもとより、テレビ番組のナレーションやCM、洋画では『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズなど、数々の吹き替えでも知られた内海賢二。半世紀に渡って、声優業界で活躍した彼は、惜しくも2013年に世を去った。その軌跡をたどる映画『その声のあなたへ』が誕生。「声優」「役者」という仕事の本質に迫る一作で、内海の証言者の一人として登場するのは、声優事務所・賢プロダクション社長にしてご子息の内海賢太郎。父、そして「声優・内海賢二」をよく知る賢太郎氏と、本作の榊原有佑監督の対談を敢行。後編では、その類まれな人物像を聞いた。

前編はこちら

 

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「本当の内海賢二になる前に死んでしまった」

柴田秀勝 ©映画「その声のあなたへ」製作委員会

――賢太郎さんは生前、内海賢二さんのマネージャーも務められ、その姿を見守ってこられたわけですが、本作の中で印象深かったシーンを教えてください。

 

内海 やはり上京した頃の父の苦労話ですね。父の盟友でもある、柴田秀勝さんとの声優デビューする前の話や、母と結婚した当初の話など、僕自身初めて知ることが多かったんです。うちの母が言っていたのですが、父はコンプレックスの人なんですよね。小学校に上がってからは親もいないし、北九州から苦労して東京に出てきて、ようやく声優になったわけですが、そこでも待遇が苦しい時代を過ごしたので。それを本人は一切口にしなかったし、少なくとも僕は聞いたことがなかった。父の中では苦労話は、武勇伝にはなり得なくて、ただ辛い話だったんでしょうね。

 

――実際、本作では内海さんや野沢雅子さんなど、当時声優として活躍してこられた方々が、待遇改善を求め、ストライキなどをされた歴史も語られていきますね。

 

榊原監督 やっぱり今の声優業界があるのは、内海さんはじめ皆さんが、作ってこられた部分がありますよね。いまの若い方はそうした活動があったことをなかなか知らないと思いますが、そういう歴史の上にいまの声優の皆さんの活躍があることを知っていただきたい気持ちがありました。

 

野沢雅子 ©映画「その声のあなたへ」製作委員会

内海 ただ、あの声による「強くて男らしい」みたいな内海賢二というのは、彼の中の理想像でもあったのだろうとは思います。これは父の兄に聞いたのですが、父は若い頃、友達とお寿司屋さんでバイトをしていたそうなんですね。そこで友達が店のお金をくすねてしまった。だけど、父は俺がやりましたと言って、タダ働きをしていたそうで。そこは柴田さんの「あいつは内海賢二を演じていて、本当の内海賢二になる前に死んでしまった」という言葉がすごく的確に父を表していると思います。

 

――なかなか、そこまで「演じきる」ことが出来る役者さんはいませんよね…。内海賢二さんの奥様であり、賢太郎さんのお母様、野村道子さんも声優でいらっしゃいます。長年「ドラえもん」のしずかちゃんや、「サザエさん」のワカメ役などで活躍されてこられた野村さんですが、内海さんはどのようなご夫婦だったのでしょうか。

 

内海 母も、すごく仕事人間なんですよね。僕が物心ついてからは、父の仕事仲間であり、マネージャーであり、パートナーという感じでした。僕が小学生のとき、父が賢プロを立ち上げたばかりだったときのことで、覚えていることがあって。僕は二人が喧嘩しているのを見たことがなかったのですが、一度だけ二人が会社のことで激しい言い合いをしていたんです。それだけ二人にとっては、この会社というのは夢だったのだな、と。僕はいま、そこを守る立場にいるわけで、たまにそのときの二人の姿を思い出しますね。母は85歳なんですが、もうずっと何か目標を遂げるために動いている人で、それが生きがいなんだと思います。

 

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