NPBの斉藤惇コミッショナー(左)とJリーグの村井満チェアマン
NPBの斉藤惇コミッショナー(左)とJリーグの村井満チェアマン
政府は、急激に方針を転換した。厚労省が「自粛要請を行うものではない」とメッセージを出したすぐ次の日に、安倍首相が「国内のスポーツ・文化イベント」の自粛を要請したのだ。ところが、その一日前に、Jリーグは自らの判断で、スケジュールの延期を発表していた。この一日の差は大きな意味を持っているーー。

■もうひとつの重要な選択

 Jリーグとプロ野球は、日本で最も多くの観客を集めるプロ・スポーツ団体だ。しかも、感染症対策についても課題も共通している。ともに密閉空間ではない屋外のスタジアムを使って(※注)、数万人の観客が集まるイベントを行うのである。

(※注)日本のプロ野球球団の約半数は本拠地としてドーム型スタジアムを使用しており、Jリーグでも北海道コンサドーレ札幌は札幌ドームを使用しているが、「専門家チーム」の提言によればドーム型スタジアムは条例等で外気供給能力が義務付けられており、屋外に近い環境が確保できるという。

 そして、実際にその後何度か行われた「Jリーグ再開延期」や「プロ野球開幕延期」の決定に際しては、連絡会議の下の「専門家チーム」が開催され、その助言に基づいて各団体が独自に決断してきたのだ。

 つまり、政府の見解を忖度したり、世間の風潮に流されたりするのではなく、「専門家チーム」からの提言を受けて、Jリーグとプロ野球機構という2つの組織は科学的な根拠に基づいて独自に判断を行うという決定プロセスを整えることができたわけだ。

 リーグ戦の再開(あるいは開幕)に向けても、「専門家チーム」の助言の下に様々な準備がなされている。

 クラブ関係者の感染を防ぐために濃厚接触を避けるためにロッカー室やシャワー室を時間差利用するなど様々な方策が講じられており、また再開された時にスタジアムの入場口で来場者に対して体温チェックを行うためのサーモメーターや消毒液、マスク等も準備されている。さらに、いわゆる「密閉」、「密集」、「密接」という感染を拡大する危険の大きい環境を作らないために、入場者数を制限して観客を隔席で着席させるといった感染防止策も検討されているし、サッカーや野球で一般的に行われている様々な応援スタイル別によるリスク評価なども行われている(「提言 日本野球機構・日本プロサッカーリーグにおける新型コロナウイルス感染症対策」=https://www.jleague.jp/news/article/16825/を参照)。

 世間の目を気にして安易にイベント自粛を決めるのと、上記のような十分な感染症対策を行った上で最終的に主催者側の責任において開催の可否を判断するのとでは、たとえ結論は同じであったとしてもその意味するところは大きく違う。

 ところで、もう一つ重要なのはJリーグとプロ野球が無観客試合の開催ではなく、入場者を入れての通常の形での開催にこだわったことだ。

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