湘南ベルマーレ会長に聞くJリーグ移籍の現在・未来(1)「お金を払ってもらえる世界をつくるのは、選手のためにも大事」の画像
湘南ベルマーレの眞壁会長

 

 湘南ベルマーレは、2010年にJ1に復帰して以降、初めて3シーズン連続でJ1の舞台で戦っている。 

 降格から時間が経つほど負のスパイラルにはまり込んでしまうJ2で、11年ぶりに昇格したことだけでも大きな成功だ。2010年以降3度のJ2降格を喫しながら、そのたびにJ1に戻ってきたことも称賛に値する。しかも、毎年のように主力を引き抜かれながらであれば、なおさらだ。

 選手が他クラブに羽ばたいていくことは、必ずしもマイナスではない。だがサッカーの世界では「育成型クラブ」と評価されても、移籍金(違約金)が発生しなければ本当の意味でのプラスとは言えない。

 国内他クラブを経て海外にも移籍する選手らも輩出してきた湘南だが、クラブにとってのプラスを享受できるようになったのは最近のことだという。その問題点、全体にとってプラスとなる本来あるべきリーグの形、また今後の展望を、J2時代から長く湘南に携わってきた眞壁潔会長に聞いた。

(非常事態宣言発令前の2020年3月第3週に取材)

周囲に驚かれた安価での移籍

――先日、これまでの選手の移籍にあまり移籍金が発生していなかったという話を聞いて、驚きました。Jリーグの移籍を取り巻く現状について、どう思われますか。

「昔のような移籍係数(編注:2009年までは年齢が若いほど移籍金が高くなる係数がローカルルールとして制定されていた)ではなくてもいいけれど、せめてホームグロウンの選手に対しては、もっと移籍の際にお金を落としていけるようにした方がいいよねという話は、Jリーグの実行委員会や理事会でも総論賛成という形で議題になったことはあります。

 ある選手の移籍金について日本サッカー協会の幹部に尋ねられて金額を答えた時には、あまりの安さに『それはないよね』と驚かれました。でも、うちのようなクラブは選手の給料は高くはないので、ビッグクラブへ挑戦をさせるにあたっては、要望に沿って違約金の設定は低くせざるを得ないので、どうしてもそうなりますよ、と話しました。アカデミーで小さい頃から育てた選手が移籍した時にも、信じられないような金額しか発生しなかったこともありました」

――その当時は、どんな状況だったのでしょうか。

「ちょうど、チームが育てた選手が主力となり躍進しだした時期でした。長年J1クラブで強化をマネジメントしている人からすれば、違約金設定を低くしていたのがいけないという話になるのでしょうが、当時の強化部長は選手のトランスファーより、昇格をつかみ取るためのチーム強化に精一杯でした。それほど多くのオファーを想定できなかったと思います。契約更新の時にも、その時点での移籍がどうということではなく、給料は高くできないかわりに将来への可能性を残すため違約金設定を低くするよう私も指示していました。

 小さいチームが上昇していく過程では、どうしても選手の給料は安いところから始まるので、青田買いの市場になってしまいます。J2やJ3の他クラブでも同じことで、うちはJ1に昇格できたからいいけれど、上がれないと何も変わらないままです」

――その状況を変えるのは、一クラブとしては難しいのでしょうか。

「田嶋(幸三・日本サッカー協会会長)さんもこういう状況はおかしいと言ってくれたことがあり、リーグとしてもDAZNからの放映権料による賞金の一部を育成に回すようにしようとか、いろいろ議論しました。ただ、議題には上がるものの、成立しないものもありました。

 そうするとクラブとしての対応は、企業に支援についてもらって経営の安定化を進め、選手の給料を上げて、『少なくともJ1の平均年棒に近い額にするので、違約金設定はこれくらいにさせてね』とするくらいしか手がないんです。簡単に言うと、日本の育成のためにはローカルルールをつくった方がいい。J3やJ2、J1でも規模の小さいクラブにとってはその方がいいと私は考えます」

―― 一部の大企業に快適なシステムで、大多数を占める中小企業が苦しむ日本の縮図に似ているようにも思えます。そのシステムの中で、どのように今後を切り拓きますか。

「若いチームをつくっていこう、育成型クラブを目指そうとしています。そうすれば、平均年俸は高くならないという側面もあり、スポンサーに頼らず、自立して歩けるクラブになると思うからです。

 ただし、主力選手にはちゃんとした金額を払えるだけの予算が必要です。だから、巨額ではなくていいので、金銭面で支援してくれる企業が必要です。スタジアムのキャパシティには限度があるので、いくら満員になったとしても、入場料収入だけでは足りません」

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