杉山氏(左)と戸塚氏
杉山氏(左)と戸塚氏

 ついに緊急事態宣言が解除された日本。いまだコロナウイルス終息へは予断を許さないが、少しずつ明るい兆しが出てきたのは確かだろう。ドイツ・ブンデスリーガは5月16日より無観客ながら試合が再開され、日本でもJ1リーグが7月4日(土)から、J2、J3も6月27日(土)から、無観客での再開が決定した。
 大きなスケジュールの変更が強いられたサッカー界だが、それはサッカー日本代表の活動も同じ。3月26日に行われるはずだったFIFAワールドカップ・アジア予選 2次予選、対ミャンマー戦は中止となり、同じく6月4日の対タジキスタン戦、6月9日の対キルギスも中止が決定している(6月5日、アジアサッカー連盟がそれぞれ10月、11月に行うことを発表)。はたして今後、2022年カタールW杯を目指す森保一監督率いる日本代表はどうなっていくのか。辛口の評論でおなじみの“サッカー番長”こと杉山茂樹氏と、サッカー日本代表取材数409試合を誇る戸塚啓氏、2人のベテランスポーツライターが、サッカー日本代表、そしてW杯について語り合った。

――戸塚さんは、森保監督の言葉についてどう考えられますか?

戸塚  非常に控えめな方ですよね。非常に謙虚な方。それは、記者会見場に入ってくる佇まいからそうなんですよ。必ず入ってくると一礼して、最初に、ファン、サポーターの皆さんに感謝をしてから、試合のコメントをする。出て行くときも、ちゃんとまた一礼して出ていく。まあ、バランス感覚があるとも言えるけど……ただ、そこにカリスマ性みたいなものは率直に言って感じられない。杉山さんとは言い方は違うけど、別にそれが僕らに見えなくてもいいと思うんですよ。チームの中で、森保さんにカリスマ性みたいなものがちゃんとあればいいと思うんですが、そこも、残念ながらあまり透けて見えてこないというのが非常に歯痒いところですね。

 いろんなマネジメントの仕方あるじゃないですか。同じ目線で、やっていこうぜっていう人もいれば、ちょっと上から、おい、いくぞ、みたいな人も。いろんなやり方があると思うんだけど、代表監督はどっちかっていうと、特にフル代表の監督は、やや上ぐらいの方が、僕はいいと思うんですよ。

杉山  そう、だからヨーロッパなどでは、“上がった人”がやるんですよ。いわゆる上がりの監督。

戸塚  監督として絶頂期にフルタイムやる仕事は、クラブチームのほうですよね。代表監督はパートタイムですね。

杉山  そうです。クラブチームの監督を一通りやって、結果を残して名声を得た人が、代表監督にやるわけですよ。そうすると、“通り”がよくなるんですよ。

――クラブに対して意見の通りが良くなる?

杉山  それもそうだし……。

戸塚  選手に対しても、ですね。

杉山  そうそう。ちょっと、この重鎮が言うんだったらしょうがないなというムードになる。

戸塚  実績も大きいですよね。クラブでの実績とかを見れば、この人がそういうんだったら、まあ確かに、そういう考え方もあるかな、みたいな感じで受け止められる。全面的に納得できなくても、理解は得られやすいと思うんですよね。

――ブラジル代表監督もそうですね。

杉山  どこもみんなそうですよ。

戸塚  結局、ジーコに対してはみんなが、やっぱすごいなって思っていたじゃないですか。それが、最終的にジーコには戦術がなかったという話になったとしても、そこまでのプロセスにおいては、やっぱりジーコだから、っていう話になっていたわけじゃないですか。

杉山  そう。だから、ジーコにそれなりの戦術があればね……。オシムもそうだよね。クラブの監督を一通りやって、そっちはもういいやって感じで日本代表監督になった感じ。

戸塚  アーセン・ヴェンゲルもよく、代表監督は年を取ってからやるものだと言っていましたね。
だから、U―23の監督だったら、同じ目線で、おいちょっとやろうぜ、頑張ろうぜ、みたいな感じで若い選手を持ち上げるとかもありだとは思うんですが、フル代表は、杉山さんが言うように、多少、上目線の感じで引っ張っていくほうがいい気もしますね。

杉山  その方が、丸く収まるんですよ。日本の場合は、ハリルホジッジが来て、いきなり縦に速いサッカーをしたり、トルシエが来て、急にフラットスリーだとか言い出した過去がありますが、一般的な国の代表監督の戦術とかフォーメーションは、その国に浸透している、最大公約数の戦術や布陣を代表チームにするというのが基本的なパターンなんです。だから、そういう国の代表監督は、あんまり突飛な戦術も本当はとらないんです。ただ、勝負師だから、戦術的な采配が上手いとか、瞬発的な選手交代が上手いということはあるんだけど。

戸塚  その瞬発力で見せてくれた成功例が今のところないっていうのが、森保監督に対する不安につながっているんじゃないですかね。交代が遅いもしかりだし、2019年1月のアジアカップ決勝のカタール戦(1-3で敗戦)のときみたいに、カタールのやり方に対して、うまく対応できないで、前半そのままズルズル行っちゃったり。ハーフタイムも多少修正はきいたものの、結局終わってみれば相手のいいようにやられてしまったという試合だったし。他の試合においても、瞬発力のある采配で成功したケースがあんまりないじゃないですか。

杉山  そうなんだよ。

戸塚  もちろんその一つが選手交代っていうものになるとは思いますね。

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