大住良之の「この世界のコーナーエリアから」 第18回「ネクタイ姿のサッカー記者」の画像
1977年のマラカナン。地元記者たちに笑われたのにもめげず。試合後にはリベリーノと記念写真。(c)M.Mochizuki
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古い写真やフィルムを見ると、かつてはスポーツを取材する記者はみんなきちんとスーツを着ていたようだ。真夏でも麻などの薄い生地の背広を着こなし、なかにはハットをお召しになった方なども。ネクタイはもちろん締めて、シャツの裾をズボンから出している人などいないし、半ズボンなどはもってのほかだ。いつから今のように自由になったのか、首を締めるものはどこに行ったのか、大住さんが長い経験を語る。

■コメンテーター氏の真実の姿

 この数カ月、月に数度、オンライン会議に出ている。以前は会議のたびに片道1時間をかけて出かけなければならなかったが、いまはその時間に机の前に座ればいい。オンライン会議だと誰も無駄口を叩かなくなる(その多くは私だったかもしれない)から、会議の進行にも好都合だ。新型コロナウイルスの脅威が去っても、会議の多くがオンラインで続けられるに違いない。

 そして何よりも、オンライン会議の利点は、短パンのまま出られることである。基本的に自宅で原稿を書くというのが仕事の私。ふだんはTシャツ短パン姿で過ごしている。さすがにTシャツでは失礼だと思うので、上半身だけはポロシャツにする。しかし画面に映らない下半身は短パンのままである。まじめくさって意見を言う他の参加者を画面で見ながら、「この人の下半身もパジャマじゃないかな」などと考えるとおかしい。

 だが、「下半身短パン」は私のオリジナルではない。明確な「モデル」がいる。ワールドカップでよく見るコメンテーター氏である。

 2022年のカタール大会は11月から12月だが、通常のワールドカップは6月から7月。北半球では真夏にあたる。国によって、気候によって、そして日によって違うが、スタジアムがたまらない暑さに襲われることも少なくない。そうした日には、カメラマンの半数以上が短パン(あるいは半ズボン)姿になる。選手たちも短パンだから、同じピッチ上で働くカメラマンが短パン姿になるのは、むしろふさわしいと言ってよい。

 サッカー報道にはさまざまな職種があって、真夏でも、スタンドでスーツにネクタイ姿を強いられる人びとがいる。テレビのコメンテーターたちだ。試合の前後やハーフタイムにマイクを手にテレビカメラの前に立たなければならないからだ。

 だがあるとき、ものすごいものを見た思いがした。1986年のメキシコ大会である。上半身はぴったりとしたジャケットを着、派手な柄のネクタイをきっちりと締めているのだが、下半身は短パン、さらにゴム草履姿だったのだ。なるほど、これなら、正午キックオフ、メキシコの強烈な直射日光の下でも耐えられるかもしれない。私は変に感心した。

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