■アザールを退場に追い込んだ17歳

 ボールボーイとアウェーチーム選手の醜いいさかいのきわめつけは、2013年1月に起こったエデン・アザールの「ボールボーイ・キック事件」だ。イングランド・リーグカップの準決勝、スウォンジー・シティ(ウェールズのクラブだがイングランドのリーグで活動し、この時期はプレミアリーグに所属していた)は、アウェーの第1戦を2-0で制し、「ホームで引き分ければ決勝進出」という有利な立場にあった。だが迎えるのは「スター軍団」のチェルシーである。

 スウォンジーがなんとか持ちこたえて0-0で迎えたこの試合の後半なかば、チェルシーに右CKが与えられる。ゴールラインから出たボールを拾いにいったのがアザールである。ちなみに、イングランドでは、ことしコロナ禍から再開されるまで「マルチボール・システム」は使われず、1個のボールでプレーしていた。CKを急ごうとしたアザール。しかしそこにいたボールボーイが、あろうことか、ボールの上に倒れ込んで自分の体の下に隠してしまったのだ。かっときたアザールは、かまわず右足のつま先でボールをけって彼の体の下から出した。するとボールボーイは大げさに脇腹をかかえて転がり込んだ。

 アザールは当然退場になった。スウォンジーは0-0のまま引き分けて決勝に進み、決勝戦では「4部」から「シンデレラ物語」のように勝ち上がってきたブラッドフォードの夢を砕き、5-0で大勝して、クラブ史上最高のタイトルを手にした。

 当然、アザールは「史上まれな愚行」と非難の的となった。だがその17歳のボールボーイがスウォンジー・シティのクラブ役員の息子であり、試合前には仲間たちに向かって「オレが時間かせぎをして決勝に行かせる」と吹聴していたことが判明すると、英国の世論は一挙にスウォンジーに冷たくなった。そのおかげか、アザールの出場停止は3試合にとどまった。

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