■緻密にデザインされた3種類の「寿人ゴール」

 典型的な「寿人ゴール」は、サイドからのクロスに合わせるワンタッチゴールだ。味方がどんなタイミングでクロスを入れ、それがどこにくるのか、彼はまるであらかじめ知っていたかのようにタイミングよく走り込み、「ジャストミート」で叩き込む。

 だかそれは、周到に計画されたものだった。試合中にどうしたら厳しくマークする相手の視野から逃れ、一瞬だけでもフリーになれるのか、寿人はそれを研究し、どこに、どのタイミングでどんなクロスを入れてほしいのか、練習中からチームメートに厳しく要求した。寿人の要求に辟易したチームメートは少なくなかっただろう。しかし彼が求めるタイミングで求めるクロスを送れば、寿人は必ず決めてくれた。仙台でも、広島でも、そして短期間のプレーに終わったが名古屋でも千葉でも、そのスタイルは変わらなかった。

 2つ目の「寿人ゴール」、それは裏への抜け出しだ。寿人は常に相手DFラインの背後を狙って斜めに走る。単純な縦への走りでは、スピードだけが武器になる。しかし斜めに走り込むことによって、相手DF対応が遅れ、フリーな状況でボールを受けることができる。味方のボールの持ち方、いつ出せるか、選手ごとに違うそのタイミングを、寿人は熟知していた。

 ユース時代までは、兄・勇人のパスのタイミングは、声をかけ合ったり、アイコンタクトを取らなくてもわかった。広島では、中盤の中央に構える青山敏弘とあうんの呼吸が誕生した。寿人がボールを迎えにくる。青山がその足元にパスを出すかのように構える。その瞬間寿人がターンし、DFが予想もしない方向に走る。その目の前に青山からパスがくる。そして寿人は守備側にチャンスを与える間もなくゴールに流し込む。

 3つ目の「寿人ゴール」は、華麗なボレーシュートだ。寿人ほど数多くの美しいボレーシュートを決めた選手はいないだろう。キックの際のボディーコントロール、シュートを浮かせないように体を倒し、キックの足をボールにかぶせる技術は世界でも一級品と言える。

 しかし寿人のボレーの最大の秘密は、その華やかなキックの直前、飛んでくるボールに合わせて細かくステップを踏む工夫にあった。これも、最終的なボレーシュートのイメージから逆算し、ジャンプが必要かどうかを決め、体を倒すためのポジションを決め、そしてステップを踏んで立ち足を決める。寿人のプレーに、即興で生まれたものはひとつもない。すべては、工夫し、練習し、身につけた計画的なものなのだ。

※第3回に続く

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