大住良之の「この世界のコーナーエリアから」 連載第47回「心の奥底にある幸福感」の画像
2本の木をゴールポストに見立て、父親のシュートを必死に止める。夢はもちろんセレソンのゴレイロだ。(c)Y.Osumi
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ボールは丸い。よく弾むし、どこまでも転がっていく。子供も猫も犬も、ボール遊びが大好きだ。ひとつのボールに何人もまとわりついて、よく笑い、叫び、走り回る。決まりごとの少ないサッカーは(手を使ってはいけないけど)、楽しくてしかたがない。では、大人はなんでサッカーに向かうのか。それは、誰でもが心になにかを抱きしめているからかもしれない――。

■もっともシンプルで楽しいスポーツ

メッシは幸福なのだろうか――。

 ときどきそんなことを考える。リオネル・メッシは2月21日に行われたカディス戦でPKを決め、今季21試合で16点目。もちろんランキング1位である。スペイン・リーグでの通算得点は538試合で471ゴールとなり、バルセロナで出た公式戦全793試合での得点数も666となった。

 これに、酷評されてばかりのアルゼンチン代表での138試合70ゴール(マラドーナは91試合34得点)を加えると、931試合で736ゴールとなる。16歳からトップクラスの試合のピッチに立ち続け、現在33歳。しかし得点を記録しても少し笑顔を見せるだけで淡々としているメッシを見ると、ふと、冒頭のような思いが浮かんでしまうのである。

 間違いなく、サッカーは、現在80億人に迫ろうとしている地球上の人類に最も愛されているスポーツである。世界各国のサッカー協会に登録され、日常的に競技に参加しているプレーヤーだけで2億7000万人に達し、未登録で楽しんでいる人を含めれば競技人口は全人類の10人にひとりぐらいになるかもしれない。そしてその周囲に、厚いファン層がある。

 1863年にロンドンで生まれたこの競技がこれほどの人気をかち得た理由はただひとつ。「楽しい」からだ。

 2つのチーム、1個のボール、2つのゴール。サッカーの別名に「The Simplest Game」という表現があるように、これほど単純に楽しめるスポーツはない。走り、ボールをけり、相手をかわし、シュートを打つ。ゴールが決まったときの壮快感。いや、ボールをけるだけで体中に伝わってくる幸福感が、麻薬のように人類を冒しているのだ。

 ワールドカップのトロフィーを掲げる選手、UEFAチャンピオンズリーグで世界の数千万人の注視のなかプレーする選手、Jリーグの選手、日曜日がくるのを待ちかねてグラウンドに向かう「草サッカー」の選手……。世界中に、数億人のサッカープレーヤーがいる。そしてその数だけ、「幸福な思い出」があるに違いないと、私は思っている。

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