■エンゴロ・カンテの復活

 チェルシーが明確な狙いを持って試合に入ったことで、修正の応酬が始まり、強度の高い緊迫した試合のまま時間が過ぎていくことになった。そういう点で、この序盤のチェルシーの守備は試合の流れを決める重要なものになった。

 また、それはある選手の復活を印象付けることに繋がった。

 互いに修正を重ねていく中で目立つようになったのがエンゴロ・カンテだ。

 フランク・ランパード前監督のもとでは、1人で中盤の守備をこなすだけでなく、攻撃の推進力としての役割も担わなければならなかった。当然1人ではどうにもならない部分があり、試合の中で悪く目立ってしまうことが増え、徐々にパフォーマンスを落とすことになった。そこに怪我も重なり、今シーズンは良さを発揮できていなかったが、この試合では良い時のカンテの姿があった。修正の応酬でバランスを崩しがちになったところで、カンテの守備能力が効いていた。

 広大な範囲をカバーするその働きぶりで結果的に主役になることは多いが、だから最初から1人に全てを任せる、というのはカンテの良さを消してしまうことに繋がる。“小さな巨人”という異名を誇り、運動量の多い守備の人、というイメージが強いカンテだが、実は組織的な守備というよりは個人での守備で目立つタイプだ。ポジションや役割、もちろん運動量も全く異なるが、自由にやらせてこそ良さが出る、という点ではリオネル・メッシに近いものがある。

 つまりカンテの良さは、チームが組織的な守備をする中で、強力な保険としての状態でいる時に最も発揮される。

 トゥヘル監督が就任したことでチェルシーにもたらされたもの、といえばパスサッカーが真っ先に浮かぶが、この試合でチーム全体が意図通りに動いてユナイテッドのビルドアップを阻んでいたように、守備の整備の方が大きい。

 このチームであれば、カンテは再び主役になれる。


■試合結果

チェルシー 0―0 マンチェスター・ユナイテッド

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  2. 2
  3. 3