大住良之の「この世界のコーナーエリアから」 連載第49回「必ずしも必要ではないが、絶対に不可欠なもの」(後編)の画像
白い「亀甲編み」のゴールネット。シューターにとっていい目標になる(ベイルートで)。(c)Y.Osumi
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VARが登場する130年ほど前に、ゴールを判定するために発明されたもの――。そこに秘められた先人の意図、思いはいかなるものだったのか。サッカーにおいて“必ずしも必要ではないが、絶対に不可欠なもの”という、あたかもスフィンクスの謎のような存在についての、唯一無二の論考をお届けする。

■1890年、リバプールで発明

 1863年にサッカーが誕生したとき、ゴールポストはあったが、クロスバーはなかった。どんな高さだろうと、2本のポストの間をボールが通過すればゴールと認められていた。3年後に両ポストの高さ8フィート(2.44メートル)のところにテープを張り渡してゴールの高さに制限がつけられ、1875年にそれがしっかりとした木製の「ゴールバー」となった。

 だがこのころにはゴールネットはない。そのため、ゴールにはいったかどうか、しょっちゅう論争になった。それに決着をつけたのが1890年、ゴールネットの発明である。リバプールに住むジョン・アレクサンダー・ブロディーという技師が考案し、特許も取得して1891年から公式戦で使用されることになった。

 ブロディーはリバプールの都市周回道路、市内の電気路面電車、英国初の都市間高速道路の建設などのアイデアを出し、工場でつくった部品を運んで短期間で家を建てる「プレハブ工法」などを発明した当時非常に有名なエンジニアだったが、常々、「ゴールネットは私が最も誇りとしている発明」と語っていたという。

 ところが初期のゴールネットはゴールに取り付けて後方に引っぱってあったものの、強く張りすぎ、ゴールにはいったボールがそのままネットからピッチ内に跳ね返って主審がクロスバーから跳ね返ったと勘違いする出来事があり、またまた頭痛のタネとなった。ゴールの背後からロープで引っぱって「深さ」をつけるようになって、ようやくこの頭痛を忘れることができるようになった。

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