大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第55回「なぜ90分間か」(後編)の画像
試合には必ず終わりがある 撮影/中地拓也

※前編はこちらから

知人の自称サッカーマンは、山歩きのときに45分歩くと15分の休憩をとり、自転車乗りでは90分走ると15分休みたがる。しかし、その通りになったことはまずない。サッカーを離れると、時間の区切りとしてはどこか不自然なのだ。なぜサッカーの試合時間は90分間なのだろう。今回は、その不思議に迫る――。

■起源は古代メソポタニアにさかのぼる?

「記録に残る最初の90分試合」はわかった。だがなぜ90分なのか、それは謎のままだ。実は、さまざまな人がその研究をしたのだが、現時点では、これという定説を生むことはできていないのである。それにしても、「90分」も「45分ハーフ」も、現代の私たちからすると、実に「中途半端」な数字ではないか。

 2004年にピーター・セドンという人が書いた『Football Talk』という本によると、19世紀に至るまで、「60」という数字が今日の「100」のように重要だったことが、「試合時間90分」が誕生した最大の理由ではないかという。「60」をいわば「完全」とし、その4分の1に当たる「15」、そして「30」、「45」という区切りが、現在想像する以上に、19世紀の人びとの生活に根差していたという。

「六十進法」の発明者は、紀元前3000年ごろ、古代メソポタミアのシュメールである。「60」という数字は、立方体の面の数「6」と、両手の指の数「10」、1年の月数の「12」、両手両足の指の総数「20」、そして1カ月の日数「30」、そのすべての「最小公倍数」で、さらに1から5までのすべてで割り切れる数のため、分割に便利だったからと言われている。西洋文明は、メソポタミアを源流にギリシャ、ローマを経てヨーロッパに広がる。六十進法や「60」の神秘性も、そのなかに受け継がれていく。

 1時間が60分間、1分間が60秒という数え方は、いまでも使われ、私たちの生活感覚に根づいている。スポーツ界最大の不思議と言っていいテニスのポイントの数え方、「15、30、40」も、実は「60」を1ゲームとした「15、30、45」の区切りからきており、「フォーティーファイブ」というのが面倒なため「フォーティー」で切ってしまって生まれたと言われている。

 サッカーの試合時間も、15分単位で区切っていったとき、なんとかプレーできるのが45分間ずつ前後半の90分間という必然性があったのではないかと、セドンは説くのである。

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