■日本にたった4人の「北キプロス人」

 

 鶴ヶ島を出て南下すると、だんだん畑が目立つようになってくる。芋掘り体験の農園もあるが、多いのは茶畑だ。狭山茶の香りと、入り組む狭い道路、小規模な工場群、ところどころに残る武蔵野の雑木林。まさしく我がふるさと……と思っていると、問題の店を発見! 本当に茶畑の中に「トルコお菓子の製造」と看板が立っているではないか。車を降りて、恐る恐る近づいてみる。

「おおっ!」

 なにやらトルコ関連の食材を売るミニマートも併設されている。だが電気はついていない。奥のほうには工場らしき施設もあるので近寄ってみると、狭山市にはとうてい似つかわしくない彫りの深い中東系のコックコートのおじさんが顔を出した。思わず、「youはどうしてこんなところに?」と聞きそうになったが、すぐに恰幅のいいふたりの男性も現れた。

「よく来てくれました、歓迎します」

 北キプロス人のハサン・ヌリさんと、その息子のラシット・ヌリさんだ。トルコ人のコックとともに、バグラヴァをはじめとしたスイーツの製造販売を行う会社『ハセルフーズ』を経営している。用意周到なHiroさんが、お伺いすることをあらかじめ伝えておいてくれたのだ。

「日本に住む北キプロス人は4人しかいません。私たちはそのうちのふたりです」

 なんとも重い言葉だと思った。日本には300万人近い外国人が住んでいるが、たとえば急増しているベトナム人は42万人、ネパール人が9万人。北キプロスのただひとつの「友好国」トルコからは5700人あまりの人々が日本に来て、暮らしている。ほか法務省の在日外国人数データ(2020年6月現在)を見ると、東ティモール33人、ブルネイ38人、オマーン25人。日本ではあまり聞かない国に比べても、4人というのはあまりにさみしい。しかも北キプロスは国際的には未承認国家なのである。

「だから私たちのパスポートも日本では使えません。北キプロスの住民はトルコ政府にパスポートを発行してもらい、それで海外に出るんです」

 そんな話を、絶品のバグラヴァとトルコの紅茶をいただきながら聞く。きっとたいへんなご苦労があっただろうヌリさん親子は、なぜ狭山のこの地にお菓子工場を立ち上げたのだろうか。

 

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茶畑と工場が続く狭山市の一角に、トルコスイーツと食材を扱うハセルフーズがある(撮影・工藤真衣子)
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日本に4人しかいない北キプロス人のひとり、ハサン・ヌリさん。ハセルフーズの社長を務めるが、ほかにも重要な任務が。それについては次回
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バグラヴァとお茶の組み合わせは最強(撮影・工藤真衣子)

 

(次回に続く)

 

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バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記
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タイ・バンコクに編集部を置き、風俗から秘境旅、戦場ルポやグルメ、政治経済まで雑多な記事を満載し、アジアの伝説と呼ばれた雑誌「Gダイアリー」で編集記者として働いた日々の記録。Gダイ名物ライターの素顔から、雑誌作りの裏側、タイの政変に巻き込まれた顛末、「アジアの雑誌」との分裂騒動まであますことなく伝える。アジアを目指す男たちが愛したGダイが、いま甦る!

 

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