文/チョン・ウンスク

 

 韓国の映画やドラマによく登場するオクタッパン(屋上家屋)特集の最終回は、フィクションではなく、実在するオクタッパンについて。

 

■オクタッパンとは?

 

 漢字で書くと「屋塔房」。つまり、多世帯住宅や雑居ビルなどの屋上に増設された家屋(部屋)のこと。最上階のさらに上となるので、階段の上り下りが大変。冬は寒く、夏は暑い。水の出が悪い。しかし、家賃は安く、住居以外のスペースを庭のように使えたり、洗濯物を干せたりするなど、メリットもあるにはある。

 

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釜山、凡一駅の北東方向にある中央市場周辺は70年代的な風景がところどころに残っている

 

■釜山、雑居ビルの屋上にオクタッパンの村がある

 

 韓国映画やドラマを見慣れている日本の人たちは、オクタッパンと聞けば屋上にある一軒の小さな家を思い浮かべると思うが、釜山には雑居ビルの屋上にびっしり建てられた家屋に今も十数世帯が暮らす屋上村(オクサンマウル)が存在する。

 釜山地下鉄2号線の「国際金融センター釜山銀行」駅の辺りは、63ビルと呼ばれる約290メートルの高層ビルが天をつく未来的な風景が見られる。しかし、そこから西南方向に歩き、東川を渡ると、釜山らしい生活感のある街並みに変わる。

 途中、70年代の匂いがする雑居ビルが「おいでおいで」をしているので入ってみる。看板には「中央市場青果部」と書かれている。1階はシャッターを下ろしている商店が多いが、地べたに置かれたカゴの上に野菜を並べて売っている店がいくつかある。

 2、3階には印刷会社の事務所や小さな縫製工場が残っている。内壁はいたるところがひび割れ、雨水が滴っている。階段の手すりは一部が錆びて欠け落ち、用を成していない。

 いくら古い建物が好きな筆者でも、かなり危険を感じるレベルの朽ち果て方だ。映画だったら、事件が起きそうな場面や、なんらかの闇取引が行われる場面に使われそうだ。

 チョン・ウソンとファン・ジョンミンの主演映画『アシュラ』に、古びた雑居ビルが出てきたのをご記憶だろうか? あれ以上に年季が入っている。

 

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2010年に撮影した中央市場の建物。写真上部が屋上村
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2010年の屋上村の風景。とても屋上とは思えない。このとき、屋上村の全容を写真に収めようと、隣接するビジネスビルの見知らぬオフィスにまで入れてもらって撮影したのだが、紛失してしまったようだ。ネットで「옥상 마을」で検索すると、さまざまな写真や動画が見つかるので、ぜひ見てほしい

 

 さらに階段を上がると、屋上に出るはずなのだが、そこには街があった。我が国のごくありふれた住宅街が。しかし、住宅の一軒一軒はよくあるオクタッパンのような物置小屋ふうではなく、古いがコンクリートの門を構えた家である。それが十数戸並んでいるのだ。住民の多くがお年寄りで、なかには50年以上住み続けている人もいる。

 この辺りに市場ができたのは1968年だから私と同世代だ。当初は市場の商人たちが無許可でこのビルの屋上に家を建てて住んでいた。もともと平地の少ない釜山。朝鮮戦争で多くの避難民が殺到し、休戦後は爆発的に人口が増加した。甘川文化村をはじめとするタルトンネに住むのも大変だった時代、屋上に家を建てて住もうとする人がいても不思議ではない。

 筆者がここを初めて訪れたのは2006年頃だったと記憶している。このビルの周辺は再開発が進み、高層アパートが屋上村を見下ろすかっこうだった。無様と言えば無様なのだが、この村は映画『国際市場で逢いましょう』の主人公ドクス(ファン・ジョンミン)のように、他所から釜山に移り住み、この地に根を生やした人々の逞しさを象徴しているようで、感動すら覚えたものだ。

 しかし、屋上村との別れのときは確実に迫っているようだ。

 

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中央市場の近くには行列のできる激辛トッポッキ屋が。そして、凡一駅へ戻る途中にはナクチポックム(タコの辛い鍋)専門店が並ぶ通りがある

*本連載は月2回配信(第2週&第4週金曜日)の予定です。次回もお楽しみに!

 

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