文・光瀬憲子

 

 台湾で暮らしていた90年代末は、日本食が手に入りやすい台北に暮らし、都会らしい生活をしたがった私だが、いったん帰国して2000年以降に再訪するようになると、以前あまり知らなかった台湾南部や中部に興味を持つようになった。

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新竹から車で3時間。霧深い山にある司馬庫斯(スマンガス)は、先住民タイヤル族の集落だ


■実在する原始共産主義社会


 そして2007年に初めて先住民が暮らす集落に足を運んだ。台北の南西にある新竹から車で山を登ること3時間あまり。海抜1500メートルのところにある司馬庫斯(スマンガス)という村だ。

 実はこの村、電気が通ったのが1979年とだいぶ遅く、外へと通じる自動車道路が開通したのは90年代半ばのこと。でも、この地にはずっと以前から先住民のタイヤル族が暮らしていた。道路が開通するまで、山の人々は何時間もかけて山道を歩き、食料や燃料の買い出しに行っていたという。

 私がスマンガスを訪れたのは、「神木」と呼ばれる樹齢3000以上の巨木群があると聞いたからだ。巨木群が発見されたのも90年代のこと。村の人々はこの神木で観光客を誘致しようと一念発起し、村に旅行者向けのサービスセンターを作ったり、宿を用意したりした。私もそんな巨木群観光の一環でスマンガスを訪れたのだ。

 けれど、スマンガスでは観光というより、いい意味で現地の人々の本当の暮らしぶりを知ることができた。彼らは「ガガ」という先住民村独特のルールにのっとって生活をしていて、そこはいわば小さな原始共産社会。多くの食べ物は自給自足で、人々はみな食堂に集まってごはんを食べる。炊事係も清掃係も順番に回ってくる。なんでも平等に分ける社会だ。小学校や教会が村の中にあり、子どもたちは裸足で走り回っている。村全体が大きな家族という雰囲気で、大人が全員で子どもたちの面倒を見ているようなところがある。台湾の山奥に実在するリアルなユートピアなのだ。

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ピアノを弾くスマンガスの子どもたち。どの子たちも裸足で走り回り、村中の家々を自由に出入りする


 日の出とともに起き出し、日の入りとともに1日の仕事を終える、単純で自然な営み。まだまだ外国人旅行者は少ないのだが、台湾各地からハイキング目的や、先住民文化に触れたいと集まってくる人は少なくない。

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台湾各地からスマンガスに多くの旅行者が訪れる。観光は今やこの村の大切な収入源だ