文/チョン・ウンスク

 

前回に続き、韓国の映画やドラマによく登場するオクタッパン(屋上家屋)の話をしよう。

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ソウルの地下鉄5号線江東駅近くのビル16階から見た風景。レンガ造りの多世帯住宅の屋上にはかならずと言っていいほどオクタッパンがあるのがわかる

 

■オクタッパンとは?

 漢字で書くと「屋塔房」。つまり、多世帯住宅や雑居ビルなどの屋上に増設された家(部屋)のこと。最上階のさらに上となるので、階段の上り下りが大変。冬寒く、夏は暑い。水の出が悪い。しかし、家賃は安く、住居以外のスペースを庭のように使えたり、洗濯物を干せたりするなど、メリットもあるにはある。

 それでは今回も映画に登場した印象的なオクタッパンを見てみよう。

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上の写真と同じ16階から見た江東区の景色(2014年12月撮影)。冬のオクタッパンはかなり寒そう

 

■『ディナーの後に』(1998年)

『ユゴ 大統領有故』や『ハウスメイド』などの話題作を撮ったイム・サンス監督の初期作品。デザイン会社を経営するホジョン(カン・スヨン)、ホテルラウンジのウエイトレス・ヨニ(チン・ヒギョン)、大学院生スニ(キム・ヨジン)の3人の性生活を生々しく描いた映画だ。

 ヨニはホジョンの住む高級アパートに居候していたが、ホジョンの外国行きを契機に部屋探しをする。そのとき不動産屋に案内されて狭い階段を登ったところにあったのがオクタッパンだった。


 部屋にはまだ住人がいた。ホットパンツ姿でベッドにうつぶせになってくつろいでいたのは、どこか夜の匂いのする女性。部屋にはタニヤ・タッカーのライブ「You Are So Beautiful」が大きな音量で流れている。ヨニは部屋の外で気持ちよさそうに風を浴びる。

 結局、ヨニはオクタッパンを選ばなかったのだが、不思議と印象に残るシーンだった。

 23年も前の作品だが、本作にはのちに華々しい活躍をする俳優が何人も出ているので、彼らのフレッシュな演技が見られる点も魅力だ。

 ヨニをナンパした軽薄な漫画家を演じたのは映画出演3回目の初々しいソル・ギョング。ワンナイトを過ごした翌朝は半裸まで披露し、彼のファンである筆者はドキッとさせられた。また、ヨニ役のチン・ヒギョンはこの13年後に『サニー 永遠の仲間たち』でグループのリーダー役を好演。そして、スニ役のキム・ヨジンはこの翌年に『ペパーミント・キャンディー』で主人公(ソル・ギョング)の妻を熱演。その4年後には『宮廷女官チャングムの誓い』でチャングムの先輩医女を演じ、日本でも認知されるようになった。最近ではソウルの世運清渓商街を舞台にしたドラマ『ヴィンチェンツォ』で決定的な悪役を演じて話題となった。

ディナーの後に
ディナーの後に

[DVD]
監督 : イム・サンス 出演 : カン・スヨン、ジン・ヒギョン、 キム・ヨジン

■黒澤明監督作品『醜聞(スキャンダル)』(1950年)

 20年くらい前に観た日本映画にもオクタッパンが出てきたと記憶していて、日本の事務所に確認したところ、あった、あった。なんと黒澤映画である。

 声楽家(山口淑子)とのロマンスを雑誌社にでっちあげられた画家(三船敏郎)が訪ねた弁護士の事務所が、まさに屋上部屋だった。東京も戦後の上京者増大で住居確保が困難な時期があったのだろうか。

 画家はまず弁護士の自宅を訪ねたが不在で、そこには結核で5年も自宅療養している若い娘がいた。

「お父さんは事務所ですけど。(わたし)ずっと寝ているんです、5年も。もう慣れちゃったわ。みんな退屈だろうって思うらしいけど、いろんなこと空想するだけでも忙しいくらいだわ。それに、こんなちっぽけな庭でも、花が咲いたり、雲の影が通ったり、小鳥だって来るのよ」

 弁護士の名刺にはビルの5階とあったが、画家が階段を上ったビルは4階までしかない。さらに階段を上がると、そこは屋上。はためく洗濯物の向こうに見えたのが、「蛭田法律事務所」という看板だけは立派なあばら家だった。


 入口のガラス戸はテープで補強されている。すきま風に揺れる裸電球。机の上には競馬雑誌が散乱していて、弁護士の困窮と堕落が見てとれる。

画家はあきれて事務所を出ようとするが、ガラス戸の脇に貼られた写真が目に入る。そこには、さっき弁護士の自宅で会った、生きる希望と明るさを失わない娘が笑顔で写っていた。画家は思い直して事務所の黒板に書きつける。

「訴訟ノ件 依頼ス 委細面談」

 日本映画にオクタッパンを舞台にしたこんな美しいシーンがあったとは驚きだ。

初めて視聴したときは気にもとめなかったが、今は涙なくしては観られない。私も年を取ったのだろうか。

<あの頃映画> 醜聞(スキャンダル)
<あの頃映画> 醜聞(スキャンダル)

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監督 : 黒澤明 出演 : 三船敏郎、山口淑子、 桂木洋子
販売元 : SHOCHIKU Co.,Ltd.(SH)(D)

※『醜聞(スキャンダル)』はamazon prime videoの「プラス松竹」で視聴できます。

(つづく)

 

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 オンライン講座「67年生まれ、チョン・ウンスクが振り返る韓国の50年」は、全3回のうち2回目までが終了しました。1~2回目の見逃し配信をご希望の方は、フリーダイヤル(0120-53-8164)にお電話なさってください。3回目をバラで申し込むこともできますが、1~2回目の見逃し配信を含め全3回通しでのお申し込みのほうが割安です。3回目の6月27日分(1998年~2020年)のお申し込みは下記、栄中日文化センターのサイトか、上記のフリーダイヤルで。

 

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