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文と写真・田島麻美

 

近ごろ、漢方薬膳にハマっている。

昨年のイタリア全土ロックダウンから1年が経ち、いまだに自由に外を歩き回れない生活が続く中、家での食生活だけは目を見張るほど進歩してきた。コロナを自力で撃退できるよう免疫力を高める食事を心がけ、美味しく楽しい食事タイムを過ごすことが我が家の日々のイベントとなっていた。ところが、年が明けた頃からどうも体がスッキリしない。運動もしているし、暴飲暴食も避けている。しっかり栄養を摂っているのになぜ? という疑問は、3月に連れ合いの花粉症アレルギーが突然悪化したことで最大限にまで膨らんだ。

 疑問が芽生えると、納得がいくまで原因と解決策を探らなければ気が済まない性格なので、早速ネットや近所の自然派薬局などで調査を開始した。その最中、オンラインの「漢方薬膳講座」に出会った。お試しでトライした最初のレッスンで、自分の根本的な間違いに気づかされて愕然とした。世間一般で「免疫アップの食材」とか「代謝を促す食材」といわれるものをやたらめったら食べていたが、そもそも私は「自分の体の状態」と、それに合った「栄養の過不足のバランス」について、まったくわかっていなかったのだ。免疫アップ食材を好みの調理法で食べ続けた結果、私の体は24時間フル稼働で燃えているような状態になっていた。そのため、体はスッキリするどころかオーバーヒートを起こして悲鳴をあげていたのである。


 

 2回目のレッスンでは花粉症の症状を抑える食事と漢方茶について学び、軽い気持ちで実験がてら連れ合いにハーブティーを飲ませたところ、なんと一晩でくしゃみと鼻水がピタリと止まった。これがきっかけとなり、漢方薬膳の世界をもっと探究したいという意欲が湧いてきた。

 東洋で古来から伝わる「医食同源」を実践するのが漢方薬膳だが、食に対する自然主義的な考え方は万国共通であることがすぐにわかった。「その季節、その土地で採れた食材を体に取り入れる」というのは漢方薬膳の基本中の基本だが、イタリアでも昔から、季節ごとの旬の食材を食卓に並べるのは常識となっている。また、以前からイタリアに根付いていた地産地消の精神もコロナ禍によってますます確固たるものになってきた。最近、近所のおばあちゃんたちが、「4月はそら豆の季節。ローマではペコリーノチーズと一緒に旬のそら豆を食べるのよ」と口を酸っぱくして言っているが、これはまさしく薬膳の基本を説いているのだ。

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4月のローマの味覚といえば、そら豆、アーティチョークとアスパラガス。中でもそら豆は春を体現している野菜。ローマではペコリーノチーズと一緒に生で食べるのが常識(上)。パンチェッタとそら豆、ペコリーノチーズのパスタもこの季節ならではの逸品(下)


 イタリアの旬の食材、地元の食材は近所のスーパーで簡単に入手できるのだが、苦労するのは薬膳のテキストで紹介されている日本の食材がこちらではなかなか買えないことである。イタリアの大地は土が硬く乾燥しているため、大根やゴボウなど地中深くで育つ野菜は市場にはあまり出回っていない。毎日の食事に取り入れるのが難しかったり、やたらと高級でハードルの高い食材では意味がないので、「日本の食材と似たような特性を持つイタリアの食材を探す」ことが、目下の最大の関心事となっている。
 

 例えば、かぼすやすだちに代わるイタリアの柑橘類はなにか。日本の瓜類は手に入らないがズッキーニでは代用できないか。しいたけや松茸に代わるイタリアのキノコはなんだろう、といった具合に、身近な食材を再点検して漢方薬膳のメニューに取り入れる工夫をしているが、この作業が思っていた以上に楽しい。

 さらに、日本の食材の代わりとなる食材を探し求めるうちに、今まで知る機会がなかったイタリアの伝統食材や、イタリアならではのスーパーフードなども新たに発見することができたのは嬉しい誤算だった。先日も、もずくの代わりになるような食材はないか、とスーパーの棚を漁っていた時、なんだか知らないがもずくのように見えなくもない瓶詰めを発見した。瓶のラベルには、『Salicornia(サリコルニア)』とある。どことなく蕨の縮小版のようにも見える。

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ヨーロッパが原産といわれる「サリコルニア」。今までこんな野菜があることすら知らなかったが、イタリアでは一般的なスーパーフードとして認知されているもの。酢漬けのものを買ってみたが、サラダに入れたり、五目寿司に混ぜたりして食べると美味しい


 興味半分で買って帰って調べてみたところ、これが欧州を原産とするスーパーフードであることがわかった。別名「シーアスパラガス」とか、日本では「厚岸草」とも呼ばれるサリコルニアは、塩分の濃度が高い湿地帯で育つ植物で、ミネラルや食物繊維、ビタミンA,B群を豊富に含み腸内環境を整えるのにも最適らしい。日本では絶滅危惧種に選定されていて、国内では生産されていないようだが、イタリアでは簡単に手に入るポピュラーな食材であることがわかった。瓶詰めのサリコルニアは酸っぱくて、コリっとしている。もずくとはかなり違う食感だが、その効能は似たようなもの。ダイエットやアンチエンジングにも絶大な効果が期待できるということでせっせと食べているのだが、体重は一向に減らない。「漢方薬膳」と「スーパーフード」と「エクササイズ」の組み合わせでも痩せなければ、もう他に打つ手はないな。気落ちしている私の顔を不思議そうに眺めていた連れ合いが、ぼそりとつぶやいた。「食べる量を減らせば、誰でも痩せると思うよ」。