■花見と自粛と外出と

 桜が開花しはじめた3月の連休中、楽遊は久しぶりに満室が続き、嵐山にも八坂神社にも多くの人出があった。

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3月21日、毎月恒例・東寺の「弘法市」はいつも通り開催され人出もまあまあ多かった。このあと、4・5・6月の弘法市は中止となっている
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3月29日、清水寺周辺はけっこうな人で賑わっていた。2月に葺き替え工事を終えた清水寺が、久しぶりにその全貌を現したのも人を呼んだ


「みんな大丈夫? こっちも大変だけどまた会おう」

 リピーターから届くそんなメッセージにも何かの形で答えたくて、私は毎日桜の写真を撮り歩いていた。京都がいちばん華やかになる季節の風景を、来られなかった全員と共有したかったのだ。

 3月25日、東京オリンピックが延期決定となり、東京には外出自粛要請が出た。

 3月27日、京都市長が緊急メッセージを出し、はじまったばかりの二条城や円山公園のライトアップは中止となった。京都でも、大学でクラスターが発生するなど事態が深刻さを増してきていた。

 世の中は異動の季節。楽遊のスタッフも就職して引っ越したり、就職活動を開始したり、みんな感染リスクを抱えつつ動かないといけない。子どもたちを抱えたママさんスタッフはみんな大変そうだし、本業がクリエーターのスタッフたちはイベントがほとんどなくなったと嘆いている。私はといえば、雇用調整助成金の資料を整えつつ、同時に完成間近の別邸の準備をこなしていた。

 建物の引き渡しは3月31日を予定していた。

 ここまで来て工事を止めるわけにもいかないし、4月頭には関係者のモニター宿泊も予定されている。掃除はどんな段取りでするのか、朝食をどうするのか。収納をどうするのか。考えておかなければいけないことや、段取りしておくことも山ほどある。不安を抱えつつ、走り続けるしかなかった。


 29日、新型コロナウイルス感染により志村けんが死去。

 翌日、予定していたモニター宿泊がほぼ全部取りやめになった。

 これには正直、ちょっとホッとした。

 万が一感染者を出してしまったら大変なことだし、謎ばっかりのウイルス相手に感染を防ぎきる自信なんて、私にはない。

 ホッとしたものの、これで楽遊の4月、ほぼノーゲストが決定だ。

 31日、予定通り別邸建物の引き渡し。

 引き渡しといっても儀式があるわけでもなく、工務店の社長から「じゃ、よろしくお願いします。鍵はあとで持ってきます」と言われただけ。

 本館と別邸、仕切りの仮設ドアも取り払われ、改めて、別邸に足を踏み入れてみる。

 うわあああ。

 工事中から何度も出入りしていたが、改めて見るとものすごくかっこいい。庭に面した開放感のあるロビー、1階の2部屋にはプライベートガーデンもある。2階には家族で来ても使えるコネクティングルームも用意した。

 木目が気持ちよく整った扉や床板、太陽光がたっぷり入る天窓と虫籠窓。

 なにもかもかっこいいじゃんね。

 って、うっとりしてる場合じゃない。

「これでお客さんがいればいいんですけどねえ」

 スタッフが残念がる。

「ほんとにねえ」

 3月の稼働率は、40パーセント少々で終わった。