文・山田静

 

 俺たちだって、殴られてばっかりじゃいねーよ。


 とか勢いよく前回締めくくったものの、6月中旬、大文字山の山頂で私は山の空気を満喫していた。

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山頂から市内を望む。大文字山は人気のハイキングルートだが、8月16日に「大文字焼(五山送り火)」の「大」の字が灯される宗教的な存在でもある。今年の送り火は規模を縮小しての開催となったが、8月8日、何者かが勝手に「大」の字を点灯してニュースになった


 みなさまご存知の通り今に至るまで観光業、宿泊業はまるっっっっっっきりぱっとしない。なにより自分が旅に出られないのがツラい。じっとしているのに飽き飽きして、6月からついに歩き出してしまった。

 京都盆地をぐるりと囲む東山・北山・西山を踏破する全長80キロあまりの「京都一周トレイル」である。平日のひとり山行なら感染リスクも減らせそうだし、我ながらナイス思いつき。1回10キロ程度を歩いて全8回で踏破する目標を立てて、実はね、今度の週末、7回目に行こうと思ってるんですよ……

 って、そういう話じゃなかった。このトレイルコースはまたどこかでご紹介できればと思う。

 今回は、そうです。しょぼしょぼな状況のなかにもいろいろあった、5月以降の振り返りだ。


■静まりかえった京都で

 5月いっぱい、楽遊は完全休業となった。

「春はあきらめるけど、10月にいちばんいい部屋を押さえておいて」とキャンセル後改めて予約してきたスペイン人。「私が行くまでどうぞ皆さん、身体を大事にしてね」と6月の予約をキャンセルした中国人リピーター。予約は着々と減っていく。

 もはや残念とかそういう気持ちは浮かばず、(どうかそっちも身体に気をつけてね)と思いながら淡々と事務処理をするのみ。緊急事態宣言下、日本人からの予約もストップした。

 が、静まりかえった楽遊のロビーで、私は意外と忙しかった。増築を機にリニューアルするWebの原稿を書いたり、慣れないZOOMでの会議に参加したり、レギュラーのライター仕事をしたり、各種補助金をチェックしたり、前年度の確定申告書類を作成したり。

 確定申告については、新型コロナウイルスの影響で提出締め切りが無期限になったのをいいことにほったらかしていたわけだが、「持続化給付金」申請条件のひとつが、確定申告が終わっていること、なのだ。

 前年同月比で収入が半減した事業主やフリーランサーが申請できる持続化給付金。休館が続き売上ゼロの楽遊からフリーランス・マネージャーである私の賃金をひねりだせるはずもなく、持続化給付金、まさにいま必要。ちなみに社員であるマネージャー陣とバイトの給与は雇用助成金でまかなうことにしていた。

 自慢じゃないが書類仕事は死ぬほど苦手だ。事務担当者が楽遊がらみの各種申請書類のほとんどを引き受けてくれてはいたが、それでも現場で整える書類はある。ロビーのメインテーブル上は各種申請書や説明の紙だらけ。10分やってコーヒーを飲み、10分やっておやつを食べ、10分やって「草むしりでもしようかな」なんて庭に出て、10分やって椅子にもたれて天井に向かって「あーー!!!」と叫び……と、生産性ゼロだ。

 こういうのが得意だったら会社勤め続いているし。


 ぶつくさ言いながら庭に水をまき、空いた時間は京都のあちこちを散歩するのが習慣になった。

 川床の明かりが灯らない鴨川の岸辺。

 葵祭の行列が中止になり、神事が行われた気配だけが漂う下鴨神社。

 植木屋に行く必要があり、久々に嵐電に乗って出かけた嵐山では、夜の渡月橋を渡っている人はいなかった。

 よく知っている場所で出会う、まったく見たことのない光景はどこか非現実的で、夢のなかを漂っているような気持ちだった。

「大阪モデル」が発動して通天閣が注意喚起レベルの黄色に彩られた5月11日、確定申告完了!

 

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ゴールデンウィーク中の鴨川。川床は5月1日スタートだが、「各店の判断に任せる」ことになっていた。ほんの1、2店に灯りがともっているだけで、真っ暗だ
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5月15日、下鴨神社。葵祭の行列は中止となり、神事のみ行われた。葵の葉が境内のあちこちに掲げられているが、人の姿はほとんどなかった
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経済に貢献しなきゃ、とか言い訳しながら葵祭当日限定のお菓子をぱくり。葵の葉を象っていて、ハート型みたいでかわいい
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人の姿がほとんどない嵐山・渡月橋。今さらながら、嵐山の景観の美しさに目を奪われた
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こちらも人の姿が消えた嵐山の竹林。「人が多くて写真どころじゃなかったよー」と嘆いていた外国人ゲストたち、これを見たらどう思うだろう
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朝イチで買いに行くか予約しないと手に入らない今西軒のおはぎ。11時すぎに通りかかったらまだ残っていて、つぶあん・こしあんを買おうとしたら、「きなこもありますよ?」とすすめられ3種コンプリート。行列があたりまえの店がどこもこんな感じなのも、不思議な感覚だった
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5月半ばの錦市場。休業が長引くお店も増えてきて心配
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「経済に貢献」という最強の言い訳を得ているので、いつもは入れない人気店をちょいちょい訪ねていた。『鍵善良房』もそのひとつ。ずっと座ってみたかった窓際の席でわらびもちをいただきます!
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祇園で見かけた張り紙。もうマジで、この言葉に尽きる
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八坂神社の境内にある大国主社。大国主命と因幡の白ウサギもちゃんとマスク姿