文・山田静

 

 ……来ない。

 

 10月1日から配布開始となるGOTOトラベルキャンペーンの地域共通クーポン。地域の経済活性化を狙い、旅行や宿泊代金の15%相当のクーポン券が利用者に提供されるのだが、1週間前になっても具体的な運用方法が分からない。唯一届いた「スターターキット」なるものには、使える地域が刻まれたスタンプ、スタンプ台、日付スタンプ、そしてたくさんの伝票類が入っていたが、同梱のマニュアルを読んでもいまいち具体的なやり方がつかめない。

 開始2日前になって紙クーポンの現物が届いた。

 開始前日、9月30日にマネージャーミーティングをしたものの、なにせ情報が少なすぎた。各予約サイトの運用方針も未定が多いし、紙クーポンを発行(ゲストに渡す必要枚数を、日付など記入して有効化する)するためのアプリは運用開始が10月1日(!)なので、動作確認ができない。

 この時点でまだクーポンが届いていない宿も多かったと聞くが、30日深夜、GOTOトラベル事務局から「配達が間に合わず旅行者に渡せなかった場合、事務局が直接その旅行者にクーポンを送るから大丈夫!」的なメールが来た。お疲れ様です……。


 そして10月1日、地域共通クーポン運用開始日。書類準備を担当する早番スタッフからLINEが来た。

「システムが混み合ってるとかで、アプリにログインできません」

 ……知ってた。そうなるって知ってた。

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GOTOトラベルのクーポンとポスター。紙クーポンと電子クーポンがあるが、電子は不正取得が多発して問題視されている
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館内の飾り物は感染対策でほとんど撤去したものの、なんだか寂しいので手ぬぐいで季節感を出してみる


■混乱また混乱

 地域共通クーポンの発行にも慣れてきた10月8日。

 じゃらん、楽天、一休、ヤフートラベルなど日系の予約サイトが続々と「割り当て予算に達しそうなので、GOTOトラベル割引を停止する」と発表しはじめた。

 

 どっひゃあ。

 

 GOTOには国の予算枠があり、国交省(観光庁)が、昨年の取扱実績によって登録各社への割り振りを決める、というのは聞いていた。

 だが改めて考えてみると、これだと自動的に大きな会社に予算がいっぱいいくはず。また、宿泊をメインで取り扱う「じゃらん」のような予約サイトより、旅行会社に予算がいっぱいいくはずだ。なぜなら、宿泊代金より旅行代金のほうがおおむね単価が高いから。

 おそらく政治家のおじいさんたちにとっては、いまだに「旅行は旅行会社が手配するもの」なのだろう。個人がネットで自分の旅を手配するのはそれほどの量にも金額にもならないはず、と思っていたのではないか。

 だが現実には、GOTOトラベルのような、工夫次第でお得が大きくなるキャンペーンはマイラー(マイレージマニア)のような旅好きが真っ先に飛びつく。そういう旅好きは全部ネットで好きに手配してしまう。結果として、宿泊系の予約サイトの扱い高の伸びが予想以上に大きかったのではないだろうか。

 とはいえ、なんかおかしい。一斉に予算切れって。

 そもそも各社の割り当て額も明らかじゃないし。

 首をかしげつつ、これらのサイト経由で予約済みのゲストに、まる1日かけて1件1件メールした。このままだと割引が帳消しになってしまうので、「楽遊」への直接予約に切り替えてもらう必要があるからだ。

 多くのニュースやワイドショーでもこの件は大きく取り上げられ、ちょっとした騒ぎになっていった。

 だいたいのゲストの予約を移し終わったところで、各社の予算割り当てが増額されると国交省から発表があり、予約サイト各社は割引率を元通りにすると通達してきた。10月13日のことだ。

 ナニソレ。

 予約サイト各社、こういう戦略だったのだろうなあ……。にしても事務の手間を返してくれ。

 なんて思っていたところに、「GOTOトラベル事務局への出向社員は主に大手旅行会社社員、日当4万円の人も」という報道が出てお茶を吹いた。真偽は分からないが、なんかもう、わやくちゃである。

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紅葉を迎える前に、庭師さんに庭の手入れに来ていただく。槇の木はひとつひとつ芽を摘んで、形を整えるのだそう。これは大変
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一部痛んでいたスギゴケは貼り直し。「こんなにちゃんと根付いていて、立派なもんです」と褒められた。うれしい(単純)


 混乱しているうちに、11月の紅葉シーズンが近づいてきた。地域共通クーポンの導入と東京在住者のキャンペーン参加解禁以降、予約はぐんと増えている。

 ニュースでは、地域共通クーポンの不正取得が発覚したとか、高額すぎる特典つきプランを販売していたホテルが注意を受けたりとか、毎日のように「GOTOネタ」が報じられる。その一方で、ゲストハウスや民宿が廃業を決めた、という話もぽつりぽつりと耳に入ってくるようになっていた。


 ああ、どっか旅に出たい……。

 暮れなずむ京都の空を見つめてしまうのだった。