文と写真・下川裕治 

 

■変容する那覇

 沖縄は変わった。こんなに早く日本化が進むとは思ってもみなかった。とくに那覇の変容が激しい。ここ10年のことだ。街から沖縄のにおいが消えた。アジアの風も吹いてこない。以前は頻繁に訪ねていたが、最近はその回数がかなり減ってしまっているのはそのためだろうか。

 沖縄移住組がぽつり、ぽつりと本土に戻っていることも大きい。移住組の高齢化という問題もある。なかには亡くなってしまった人もいる。僕も含め、沖縄という島に抱いた熱が、少しずつ冷めてきているのだと思う。



 いまでも若い人のなかでは、沖縄を気に入り、やがてフリーク化している人もいる。しかし彼らが沖縄に抱く熱は、僕らの世代より5度ぐらい低い気がする。沖縄の日本化が進んでいるからだろうと思う。沖縄と本土の温度差は、そう5度ぐらい少なくなったということだろうか。

 那覇ではいつも、ホテル山市に泊まる。沖映通りから少し入ったところにある格安ビジネスホテルだ。ここに泊まる人の多くは、沖縄の離島の人たちだ。最近は那覇の病院に行くという人が多くなってきた。沖縄の離島にも高齢化の波が打ち寄せている。

 1泊3700円。那覇にはもっと安いゲストハウス系の宿も多い。ドミトリースタイルの宿もある。しかし、どちらかというと若者向けで、65歳の僕は気後れしてしまう。那覇にはチェーンのビジネスホテルもたくさんある。料金も高いが、そこには沖縄の空気が流れていない。那覇にきた意味がないような気がする。そんな僕の嗜好をあてはめていくと、ホテル山市になってしまうのだ。



 ところが昨年の12月、ホテルの前で足が止まった。改築工事がはじまっていたのだ。1階のフロントもなくなり、隅にテーブルが置かれた仮設フロントになっていた。いつもいるスタッフもいない。はじめて見るおじさんが座っていた。

 ホテルの向かいに一軒のバーがある。移住組の夫婦がやっている店だ。そこで訊くと、経営者が変わったという。

「耐震構造の問題があったみたいです。改築しないといけないけど、その資金がなく、別の経営者になったって聞いてます。全面的に改築するみたいですよ」

「チェーンホテルのようになっちゃうのかなぁ。宿代も高くなって、ネットもつながるようになって……」

「まあ、そんなところでしょうね」

 ホテル山市は、ネット予約ができなかった。那覇でのシーラカンスホテルという人もいた。僕はバンコクや台北から那覇にやってくることが多い。海外から電話で予約しなくてはならなかった。部屋でもインターネットは使えなかった。

 しかし、働いている人が皆、沖縄を体から発散させていた。なにかイントネーションがおかしい標準語を話すフロントのスタッフ。部屋で仕事をしていると、

「あったかいお茶をもってきましょうね」

 と出ていってしまう掃除のおばさん……。

 しかし建て替えがはじまってしまった。

 

夕暮れどきの那覇をゆいレールから。都会だなぁと呟きながら

 

 今回もホテル山市に泊まった。改築は進んでいたが、2階がまだ手つかずで、その階だけで営業していた。訊くと、4月にはリニューアルオープンするという。部屋代はツインが1万4000円になるらしい。もう僕が泊まるホテルではなくなる。

 那覇での行き場がなくなっていく感覚は、ここ10年で何回も味わっているが、ホテル山市もその流れに呑み込まれたわけだ。



 那覇の景気は悪くないという。ミニバブルが続いているという人もいる。そのなかでは、離島の人たちが泊まる古びたビジネスホテルは、簡単に建て替えの波に掬われてしまう。

 やっぱり離島……。

 わずかに残ったホテル山市の部屋のベッドに横になり、天井を見あげながら呟いてしまう。

 

 

改築中のホテル山市。もうこのホテルに泊まることはない?