文と写真・下川裕治 

 

■久米島のバス2路線

 久米島行きのフェリーは、3時間ほどで久米島の兼城港に着いた。風は強かったが波は低く、穏やかな航海だった。僕は船酔いに弱い。船に乗るときは、いつも過去に乗った船の揺れを起こし不安になる。しかしその日の船は快適だった。乗客は20人ほど。絨毯を敷いた部屋で、毛布をかぶって寝る人が多かった。僕もそれに倣う。いつの間にか寝入ってしまった。

 沖縄の離島を走る路線バスにすべて乗る──。手はじめに渡った久米島のバス路線を見て、これは楽勝だと思った。



 久米島はそれほど大きな島ではない。島を一周する道路があり、そこを走るバスは40分ほどでまわってしまう。それと久米島空港に向かうバス。久米島のバスの路線は、この2路線である。もう1路線、島尻線という短い路線はあったが。

 

フェリーが久米島に近づいていく。島旅の気分、味わってください

 

 まず港から空港線に乗ることにした。バス停は港のターミナルから歩いて2分ほどのところにあった。

 やってきたバスには、数人の観光客が乗っていた。バスは港の周りに広がる古い集落を抜け、10分ほどで空港に着いた。そのバスが折り返すことになる。それに乗れば、空港線は乗りつぶすことができた。

 バスは久米島の町営だった。発車前、車両を見ると、「有償運送車両 自家用」と扉脇に書かれていた。沖縄の離島ではときどき目にするバスだった。これはもっと正確に表現すると、公共交通空白地有償運送という。つまり一般のバス会社は運行していないエリアに町や村がバスを運行させることをいう。この場合、自家用車も許されていた。運転手の免許にも特例があった。どことなく沖縄のゆるさとシンクロしてくる。運転手も私服でハンドルを握っていた。



 バスは再び、港の前を通り、何軒ものリゾートホテルがある一帯へと進んでいく。これに乗れば、距離では、久米島の路線の半分ほどに乗ったことになる。

 このバスは観光客向けに、何軒かのリゾートホテルをまわるルートを走った。そのため、同じ道を往復する区間も出てくる。そこにはバス停もある。そこでは往路でも復路でも乗り降りすることができた。

 このリゾートホテルエリアの入り口のような位置に、バスの営業所があった。時刻表では、この営業所が終点になっていた。しかし地図を見ると、リゾートエリアに行くには、この営業所の前を通る。

 運転手のおじさんに訊いてみた。

「このバスは営業所を通って、リゾートエリアに行くんですよね」

「そう、前を通る」

「そこで降りてもいいんですか」

「いいよー。停めますか?」

 僕は時刻表に視線を落とした。往路では停まらないことになっていた。こういうことは田舎のバスではあることだろう。しかし僕はその運賃で悩んでしまった。同じ道を往復するバスの運賃が、運賃表を見てもよくわからないのだ。久米島の乗客たちはそれを気にしないのだろうか。運賃が高いわけではないが。

 代金で悩むとき、いつも一軒の沖縄そば屋を思い出す。その店は自動販売機で食券を買うシステムだった。そこに「ふーちばそば」があった。普通のそばより50円高かった。「ふーちば」とはヨモギのことだ。ところが席につくと、テーブルの上には、食べ放題の「ふーちば」が置かれているのだ。こういうことに沖縄の人は悩まないのだろうか。

 

久米島のバスを制覇する旅は、このホテルガーデンヒルズ前というバス停からはじまった