文と写真・下川裕治 

 

■路線バスの運賃問題〈前編〉

 なんだかすっきりしない気分で、一応、宮古島の路線バスを乗り終えた。伊良部島の伊良部高校に寄る1区間が残っている。しかしその区間は、通学する高校生が乗ってくれないとバスは走らない。

 伊良部島の佐良浜の集落を歩き、伊良部高校に通う学生を探し出し、

「明日はなんとかバス通学してくれないだろうか」

 と頼み込むことも考えた。廃校が決まった伊良部高校の学生はいま、20人しかいない。バス通学に同意してくれる学生がいるかどうか。そもそも、そういうやりかたはルール違反だろう。

 宮古島の空港で那覇に向かう飛行機を待ちながら、もうひとつのわだかまりに悩んでいた。

 路線バスの運賃である。

 宮古島のバス路線は、始発バス停と終点バス停を単純往復するのではなく、途中からそのエリアを一周する路線になっていた。おそらく昔は、単純往復路線が多かったのかもしれないが、利用客が減り、一周路線が多くなってきた気がする。

 これが宮古島の路線バス制覇を面倒なものにしている一因でもあったのだが、乗りつぶすという発想で眺めると気楽でもあった。

 バスに乗り、どこで降りるということを考えずに、ただ乗っていれば、乗り込んだバス停に戻ってくるのだ。

 しかしこんな乗り方をする人はまずいない。宮古島のバス制覇などという酔狂な旗を揚げてしまった僕らしかいないはずだった。

 宮古島という離島に、バス好きという人種はいない気がする。そもそもバスの存在が限りなく薄い。

 あれは十数年前だったろうか。僕の一家は夏休みに宮古島にいた。毎年の恒例だった。その頃はレンタカーを借りることもしなかった。そもそも僕は運転免許をもっていないから、妻がその気になってくれないと、車には縁のない島滞在になる。

 ある日、うえのドイツ文化村に行くことになった。泊まっていた民宿に遊びに来ていた中学生と小学生の姉妹に訊くと、こんな答えが返ってきた。

「バス? 社会科見学で乗ったことがあるぅ」

 これはダメだと思った。どこからバスが発車するのか……などと訊くレベルではなかった。

 宮古島には鉄道がないから、鉄道オタクの少年はたぶんいない。となると飛行機かバスになるのだが、少年だったらバスだろうか。しかし宮古島の少年にとってバスは身近な存在ではなかった。

 おそらく宮古島のバスの運転手の間では、僕らは話題になっていたはずだ。始発からずっと乗っている本土から来た老人とカメラマン……。

 

平良港結節地点。与那覇嘉手刈線のバスがやってきた。このバス停は、どの路線バスも必ず停車する

 

 で、運賃なのだ。僕らが払った主だった路線の運賃を列挙してみる。

 

  • (新里宮国線)空港ターミナル前→平良港結節地点 240円
  • (与那覇嘉手刈線)平良港結節地点→平良 920円
  • (新城吉野保良線)北給油所前→平良港結節地点 140円
  • (友利線)平良港結節地点→平良 920円
  • (池間一周線)平良→平良港結節地点 550円
  • (新里宮国線)東ツンマー→平良港結節地点290円
  • (長北山北線)平良→平良港結節地点 780円
  • (新城吉野保良線)平良港結節地点→平良 1000円

 

 運賃をチェックしながら、地図を眺めてほしい。それぞれの路線は途中で降りたりせず、ほぼ乗り続けていると思っていい。

 たしかに距離は違う。しかし、空港ターミナル前から宮国、新里とシラギビーチの方までぐるりとまわり、平良港結節地点まで戻ってくる新里宮国線が240円。やはり平良市内から友利までまわって戻ってくる友利線が920円というのは、どう考えてもおかしい気がする。距離はさして変わらないはずなのだ。

 

平良港結節地点。宮古島のバスの事実上のターミナル

 宮古島のバスは宮古協栄バス、八千代バス、中央交通の3社が運行させている。八千代バスは池間島方面、中央交通はみやこ下地島空港の路線しかない。宮古島島内路線の多くは宮古協栄バスに乗ることになる。

 宮古協栄バスの運転席脇には、料金箱があった。しかしどのバスも、硬貨の投入口がガムテープでしっかりふさがれていた。



 おそらくしばらく前まで、宮古協栄バスは、本土のバスのようなシステムだった気がする。乗車時に整理券を受けとる。車内には走った距離によって運賃が表示される電光掲示板がある。それで運賃を確認し、整理券と一緒に料金箱に運賃を投入する。しかし宮古協栄バスにはそれがなくなっていた。

 

栗間大橋をバスが渡る。この車窓風景を見ただけで宮古島にきてよかったと思う
宮古島地図

 

(次回に続きます)

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