文・光瀬憲子

 

 台湾へ行けなくなってから1年以上が経つ。台湾ロスを癒すため、日本の自宅で台湾料理を再現したり、東京や横浜で台湾グッズを探したりしていて、ふと気づいたことがある。自宅で丁寧に食事を作ったり、日々の生活を見直したりすることは、台湾先住民の暮らしのあり方によく似ている、と。

 今回から数回に分けて、台湾先住民の村を訪れた経験を振り返りながら、彼らの文化や考え方に触れてみたい。

 

TAIWAN122.1
嘉義と阿里山を結ぶバス

 

■先住民の暮らしを旅する
 昨今の台湾旅行ブームは食が中心で、タピオカミルクティーやマンゴーかき氷などのスイーツなどを求めて台湾に行く人が圧倒的に多い。だが、1970〜80年代の台湾旅行ブームは少し違っていた。当時、日本からの観光客に人気があったのは日月潭や阿里山といった自然の名所。阿里山は台湾中部の嘉義という町からバスで数時間かけて山を登ったところにある観光名所で、富士山よりも高い山々から見る雲海やご来光が有名だ。だが、私が阿里山で体験したのは、観光とあまり縁のない、先住民のつましい暮らしだった。

 台湾先住民には16の異なる部族があり、それぞれ独特の文化を持っている。山で狩りをする部族、農業が主体の部族、漁業をする部族などだ。


 嘉義市内からバスで2時間ほど山を登ったところに鄒(ツォウ)族という先住民が暮らす村がある。ツォウ族の総人口は5000〜6000人。比較的小規模な部族で、山で狩りをすることで知られている。

 

■先住民が経営する宿

TAIWAN122.2
嘉義からバスで2時間のところにある民宿「秘密遊」(ミミヨ)

 

 ツォウ族の男性が経営する民宿がある。「秘密遊」(ミミヨ)という宿の名は、ぶらりと散歩する、という意味だとか。市街から離れ、何もない山道を延々とバスで登ったところにようやく現れる集落は、四方をぐるりと濃い緑に囲まれている。

 想像よりずっと洗練されていた民宿「秘密遊」は、手作り感あふれる内装や家具が印象的だ。全面ガラス張りの浴室では、深山に立ち込める霧を見ながら入浴することができる。

 

TAIWAN122.3
先住民独自の色彩や模様をあしらった家具はすべて手作り
TAIWAN122.4
広々とした浴室は全面ガラス張りになっていて、外の山々を眺めながら入浴できる

 

 日本での自粛期間中、混雑する街なかを避けて、屋外の公園やキャンプに癒しを求めた人も多かったのではないだろうか。これまでは原稿に追われて家からあまり出なかった私も、最近は自宅近くの公園に足を運ぶようになった。草花を見たり、山を眺めたりすることは人間にとって案外大事なことなのかもしれないと、あらためて感じた。日々、山で自然と向き合いながら暮らしている先住民にとっては当たり前のことが、都会の人々には贅沢に思えることがある。

TAIWAN122.5
「秘密遊」のオーナー、アヴァイさんが薪をくべ、お茶を淹れたり、自家製のお酒を飲ませてくれたりする

 

■先住民の収入源

 山奥では生計を立てるのが難しいと言われているが、先住民たちはこうした独自の文化を取り入れた宿を経営し、山で採れた山菜や川魚で都会人をもてなすというビジネススタイルを確立した。

 庭に面した囲炉裏に薪をくべ、そこでとっておきの烏龍茶を淹れて宿泊客に振る舞う。山での静かなひとときを求めて、台北や高雄など、都会から足を運ぶ台湾人旅行者が年々増えている。


 もうひとつ、阿里山の先住民にとって大切な収入源に愛玉がある。愛玉は、昨今の台湾ブームで日本のスーパーでも売られるようになった「愛玉ゼリー」のこと。黄色がかった半透明のゼリーは糖質やカロリーがないため、涼を取れるだけでなく、ダイエットにも最適だ。

 

TAIWAN122.6
阿里山で愛玉を収穫する先住民男性。台湾全土でいつでも愛玉が食べられるのは、彼らの地道な作業のおかげ
TAIWAN122.7
愛玉の実にぎっしり詰まった種。これを乾燥させたものが迪化街などの乾物街で売られている

 

 愛玉は台北の寧夏夜市、士林夜市などメジャーな観光スポットはもちろん、迪化街という乾物街でも見かける。ゼリーの元となる「愛玉子」を買えば、自分で愛玉ゼリーを作ることができる。日本からもネット通販で買えるようになった。日本でも食べられる愛玉が阿里山に暮らす台湾先住民たちとつながっていると思うと、さらに味わい深い。

 

TAIWAN122.8
夜市の屋台で売られている愛玉ゼリー。レモンやライムを搾っていただく

(つづく)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

台湾の美味しい調味料 台湾醤
台湾の美味しい調味料 台湾醤

「眺めて楽しい台湾食文化の本」第二弾です。テーマは中華系料理に欠かせないペースト状の調味料である「醤(ジャン)」。30個の食材をもとに、醤を手作りする方法や醤を使ったレシピをグラフィカルに解説。台湾食文化のエッセンスを暮らしに取り入れれば、おうち時間が少しだけ充実するはず。(翔泳社 刊)

 

紀行エッセイガイド好評発売中!!