文・光瀬憲子

 

 最後の台湾旅行から1年半。家の片付けをしていたらパスポートを見つけて、また台湾へと思いを馳せる、そんな日々を送っている。忘れられない台湾の旅を振り返るシリーズ。今回は阿里山の最終回をお送りする。

 

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阿里山の山々にかかる雲海。台湾とはいえ山の上は冷えるので上着が必須

 

■神々しい雲海と御来光

 阿里山という名前は日本人にもよく知られていて、70年代は多くの観光客が訪れた観光名所でもある。ただ、阿里山という山は存在せず、数々の高山が阿里山山脈を構成しているのだ。そんな阿里山山脈を訪れる楽しみのひとつが、高山にかかる雲海と、それを照らす御来光だろう。

 阿里山の山深い場所にある先住民の宿に泊まった私は、翌朝午前4時に起床した。宿に迎えに来てくれたのはオーナーの知り合いで先住民のアフさん。彼が運転する車に乗せてもらって、御来光を拝みに向かう。


 アフさんに限らず、そして先住民に限らず、台湾中部以南に暮らす人々は台湾の標準語である北京語(台湾華語ともいう)が得意でない人が多い。アフさんも、ちょっとクセのある北京語が印象的だった。

 嘉義から鄒(ツォウ)族の暮らす集落まではバスが出ているが、宿までの道のりや、そこからご来光を見るための交通手段が観光客にはない。そこで宿が用意してくれた有料の観光サービスを利用した。

 でも、アフさんは観光ガイドというわけではなく、案内もなんだか心もとない。古い友人を自分の家に案内でもするように、雑談を交えながら車を走らせる。まだ薄暗い道で「どこで御来光を見るの?」と聞くと「う~ん、あのへんなら見えるんじゃないかなあ」という具合。大丈夫なのだろうか?

 アフさんが「あのへん」というご来光スポットに到着すると、そこは木がしげっていて雲海や日の出を写真に収められそうにない。ベストショットが撮れる場所はどこか……? 探していると、少し離れた場所が何やら騒がしくなった。見れば、大きな観光バスから中国人観光客がぞろぞろと降りてくる。現在、中国本土から台湾への渡航は厳しく制限されていて、中国人観光客はぐっと減ってしまったが、数年前まで台湾の観光名所はどこも本土からの旅行者でいっぱいだった。当然、阿里山にも大勢の中国人がつめかけた。


「日の出は6時22分です! かならずこの場所に戻ってきてください」と声を張り上げながら、中国人旅行者のガイドがフィルム付きの小さなカードを手渡している。なるほど、フィルムがあれば、御来光を見ても目を傷めないというわけだ。団体客を相手にするツアーガイドと、民宿の手伝いをするアフさんとを比べるのは酷だが、その手際のよさには感心してしまう。だが、アフさんはそんなこと気にもとめず、のんびりと「中国人はすごいなあ、いいカメラを持ってる」なんて言っている。

 そして、ツアーガイドの言った通り、あたりは徐々に明るくなり、墨絵のように濃淡のある山々の陰影がうっすらと明るくなってくる。湖のように穏やかに山の頂にかかる雲海は、息をのむ美しさだ。大勢の旅行者の笑い声やシャッター音がなければ、さぞ神秘的だろう。

 

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阿里山の御来光。11月の日の出は6時半頃。ツアーガイドがいると安心

 

 私たちには非日常なこんな風景も、先住民たちには日常なのだ。毎日のようにこの壮大な景色を眺めながら、鳥の声を聞き、雲の流れを見、川や山のものをいただく彼らの暮らし。自然への畏敬の念を抱くのは当然のような気がする。人間は小さな存在だと、日々思い知らされることだろう。観光客目線で御来光を眺め、スマホに収める自分が少し恥ずかしくなる。

 

■樹齢3000年の神木

 御来光のあと、阿里山の神木なるものを見に行った。阿里山界隈には樹齢が1000年を超えるヒノキが何本かあり、中でも樹齢3000年前後のものは「神木」と呼ばれる。観光名所としてウッドデッキが作られていて、すぐそばまで歩いて行けるようになっている。

 

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貫禄たっぷりの樹齢2700年のヒノキ。界隈には樹齢1000年を超える木が多数ある

 

 だが、アフさんに聞いてみると、ツォウ族にはこうした高樹齢の木とは別に、彼ら独自の神木があるのだという。

 ツォウ族はかつて首狩りをしたとされる先住民だ。戦になると相手グループの頭目の首を狩る。恐ろしい風習にも聞こえるが、猟で生計を立てる彼らにとって、縄張り荒らしは重罪なのだ。自分たちの集落を守るため、彼らは敵の頭目を狩る。むしろ、頭目だけを狙うことで、多くの犠牲が出るのを防ぐのだという。

 

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ご来光や神木を案内してくれた先住民のアフさん

 

 集落には伝統的な高床式の集会場「クバ」がある。かつて、小学生ぐらいの男の子たちを訓練する場所として使われていたそうだ。女子禁制であり、いまだにその看板が立てられている。

 

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集落の中心に位置するクバと呼ばれる集会所。「女人禁制」の文字がある

 

 クバのそばに、1本の木が植えられていた。アフさんいわく、これが彼らの「神木」なのだそう。一見、それほど特別な木には見えないし、樹齢は数百年だという。だが、首狩をしたあと、相手グループの頭目の首をこの木に吊るし、数日間祀る風習があった。見せしめではない。彼らは首を狩ったあと、その頭目の勇気をたたえ、クバのそばの神木に祀り、供養するのだ。

 先住民の伝統的な生活様式は徐々に消え、現代も残っているものは少ない。けれど、それは物語として若い世代や一般の台湾人、そして外国人にも伝えられている。

 

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クバのそばにあるツォウ族の「神木」。彼らの心の拠り所となっている

 

「サスティナブル」という言葉を聞くようになって久しい。プラスチックゴミを減らし、資源を節約することの大切さを、ツォウ族を始めとする先住民たちはずっと前から実践している。彼らの生活から学ぶことはまだまだたくさんありそうだ。

*本連載は月2回(第1週&第3週金曜日)配信予定です。次回もお楽しみに!

 

 

 

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