Text & Photo by Munekazu TOKIMI

文と写真・時見宗和 

 

 とろり、とろりと       

 大きな木に出会うと、いつも、上へ、上へと連れて行かれる。数百年の時間が刻みこまれた樹皮を伝い、物語を乗せて無数に広がる枝をくぐり、やがて視線は初々しい先端の向こうの青い広がりに吸いこまれ、身動きが取れなくなる。 

 

Blue Journey

 

 川もまた、いつのまにかこころの中に入りこんでくる。

 海や川や湖や樹木の葉から立ちのぼった蒸気は、雲を作り、雨や雪になる。大地に還った水は、土にもぐり、あるいは小さな流れとなって低い方へと流れる。小さな流れと小さな流れが出会うと小川になり、小川と小川はさらに大きな流れをつくり、出会いを重ねながら川になる。

 つねに入れ替わり、一瞬、一瞬が新しく、それなのに同じ姿を保ちつづける川の流れを見ていると、深みへ、深みへと吸いこまれていくように思え、身動きが取れなくなる。

 

Blue Journey

 

 紅土(ラテライト、語源はラテン語のLater=煉瓦)をたっぷり含んだ水が揺れている。

 タイの中央部を縦断し、首都バンコクを南北に流れるタイ最大の川、チャオプラヤー川。

 源流はタイの北部、ミャンマー国境付近を水源とするピン川とラオスとの国境付近、ルアンブラバン山脈に始まるナーン川。このふたつの川がタイ中北部のナコンサワンで合流し、チャオプラヤー川となり、タイ湾に注ぐ。

 全長365キロは日本最長の信濃川とほぼ同じだが、起点のナコンサワンと河口の標高差はわずか24メートル。流れというにはあまりにゆっくりした水の動きに運ばれ、積もった土に形作られた広大なチャオプラヤー・デルタ(三角州)は、世界有数の稲作地帯となっている。

 

Blue Journey62.3

 

 川は高い場所から低い場所へ流れ、同時に、過去から現在に向かって流れている。

 ティグリス川、ユーフラテス川、黄河、インダス川、ナイル川、そしてこのチャオプラヤー川、もしもこれらの川が無かったら、世界は大きく異なっていただろう。

 18世紀、チャオプラヤー川にやってきたフランス人は言った。

「ここの住民たちはただ耕し、種をまくだけだ。完全な自然に恵まれているから、潅漑の必要はない。天然の洪水と温暖な気候が稲を育て、すばやく実らせる」

 

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