文と写真/丸山ゴンザレス

 

■海外の盗品ブラックマーケット 

 古美術品の販売や流通の仕組みがきっちりしている日本では、盗掘ビジネス抱える「闇」を追求するために、私のような部外者が取材で入り込むには厳しいものがあった。もちろん時間をかけて人脈をつくり、信用を勝ち取って徐々に迫っていくようなやり方や、エンドユーザーとして買う側になるなどのやり方もあるのだろうが、それでは時間やお金がかかりすぎる。「現状」をすぐに把握することは難しいだろう。

 ただし、これまでの経験則から、それはある程度、想定内だった。そこで私は、視点を海外に向けることにした。ブラックマーケットの構造をわかりやすく調べることができる場所ということになれば、日本に限定せずともよいのではないかと思い至ったからだ。



 古美術品が違法に取引されるのは、主な要因が人間に共通した欲求、収集欲によるものだ。そこに国籍や国境は関係ないだろう。外国に目を向けるというのは、海外をメインの取材フィールドのとする私にとっては得意とするところである。むしろ日本と対比しながら、興味深い取材ができるのではないかと思っていた。

 私がその取材を行うにあたって選んだ国は、タイである。これまでに何度も足を運んできたこともあるうえに、国内にはアユタヤやスコータイなど、世界遺産に登録されている巨大遺跡がある。さらに隣国のカンボジアには、世界的に有名なアンコール・ワットを含むアンコール遺跡群があるのだ。これ以上、条件にぴったりな場所はないだろう。

 そこで私は、タイの警察にコネクションのある在住日本人のKさんに連絡を取った。彼を通じてタイ警察に取材の申し込みをするためだ。遺跡由来の文化財が違法に流通する現状を知るべく、「誰が盗掘品を売りさばいているのか」「どこで売りさばいているのか」「押収した遺物を見せてほしい」といった感じの内容をお願いした。



 ただ、内容が内容だけに、すんなりと許可をもらえるかはわからない。難航して許可が下りなかった場合は、どこで聞き込みをしようか考えを巡らせていた。

 するとKさんから「軽い感じで、大丈夫って返事が来ました」とのこと。いとも簡単にまとまった話に、肩透かしを食らった感じはあったが、準備段階で有力な伝手ができたことに安堵した。

 

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20年前に撮影したアンコール・ワット遺跡群と、当時アンコール・ワットに向かう筆者(左上)。若い!

 

■なぜか理髪店に…

  海外で考古学的な取材をしたことは、ほとんどしたことがなかった。だが、遺跡などの観光地とはかけ離れた、危険地帯や裏社会の取材を重ねてくる途中で、不意に考古学的な出合いをすることは、これまでに何度かあった。

 特に印象的だったのが、メキシコ南部のミチョアカンにある理髪店を訪れたときのことだ。麻薬戦争の取材でメキシコを訪れたのだが、これは麻薬カルテルと警察、自警団が入り乱れた勢力争いが繰り広げられている場所でのリスクの高い取材。慎重に動いていたこともあり、取材は思うように進まず、かなりハードな旅だった。



 その折、昼飯がてら立ち寄ったミチョアカンにある商店街の一角で、以前にそこが麻薬カルテル同士の抗争で銃撃戦になったという話を聞き、通行人たちに当時のことを聞いてまわった。その聞き込みで、「詳しいことを知りたければ床屋で聞けば?」との情報を得て向かったのが、この理髪店だったのだ。

 店構えは何の変哲もない、ごく普通の理髪店だったが、そこの店主は商店街の取りまとめ役のようなことをしている人物らしく、自然と情報が集まってくるのだという。

 その店で店主の話を聞いていると、店内のあちこちに様々な遺物が並んでいるのが目に入った。シビアな展開が続き、考古学的なものに好奇心を割く余裕もない状況ではあったが、

(ここで聞かなければ一生わからないんだろうな……)

そう思うと、後悔したくない気持ちがどんどん強くなり、自然と「これ何ですか?」と口が動いていた。

 店主は一瞬、「えっ?」という顔になったが、すぐに取り直して、近所にあるマヤ文明の遺跡から出土したものなどを見つけた人たちが店に持ってくるようになり、やがてここに展示するようになったと教えてくれた。

「ここで引き取らないと、みんなが売ってしまうんだよ。それは文化の流出になってしまう」

 遺物の置き方は乱雑でも、わりとしっかりとした考えでやっているんだなと、そんな感想を抱いたことをよく覚えている。

 

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メキシコの商店街で見つけた善意の寄贈遺物たち

 

■タイから突然の電話 

 このときに限らず海外では、そんな考古学的な出合いはいくつもあった。おやっと思うようなものが、至る所で無造作に置かれている。総じて言えば、海外のほうが遺物に直接触れる機会も圧倒的に多く、日本よりも色んな情報を拾いやすいという印象を持っている。

 そして、それらの地の多くは、盗掘品の中継基地といわれている場所であった。ヨーロッパやアフリカ、中東、南米などなど、それぞれの地域には、そういった都市が存在しており、その中の一つがタイなのだ。



 おまけにタイなら、コネクションもある。現地には友人も多いし、そうした友人の中には、公的機関へのコネクションを持つ人物もいる。今回の取材でも、警察側に取材の依頼をしたわけだが、これができる場所を取材先に選んだというのも大きい。もちろん、短期の滞在で盗掘者にたどり着くのが難しいかもしれないという保険の意味もあったが、取り締まる側の意見というのは、案外と聞く機会がないものなのである。

 実は、タイでは過去に私自身が遺物の売買現場に立ち会ったこともあったので、その記憶が後押しになったところも大きいが、このエピソードは、いずれあらためて紹介できたらと思う。

 それゆえに、タイでの取材は間違いなく収穫の多いものになると確信していた。だが、出発の直前になって突然、Kさんから連絡が入る。懇意にしている警察幹部が、快諾から一転、「取材NG」になったというのだ。

(後編に続く)

MASTERゴンザレスのクレイジー考古学
MASTERゴンザレスのクレイジー考古学

TBS系列の旅番組『クレイジージャーニー』で人気を博し、今ではユーチューバーとしても活躍する危険地帯ジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、これまでの取材を通じて見てきた「裏社会」と、学生時代に修士号を取得した「考古学」を融合させた「ハイブリッド考古学」の実証に挑む。自身の半生を振り返りながら持論を展開する渾身の紀行エッセイ。