文と写真・丸山ゴンザレス

 

 遺跡の分布調査では何をもって遺跡と認定するのか。古墳だったらマウンド(墳丘)を発見すればいいのだが、住居跡などのように目で見て確認できないところもある。そういうところは表面採集(表採)で遺物包含層の有無を確認する。大事なのは痕跡、つまり遺物を発見することが、遺跡発掘の第一歩だということだ。

 そんな表採の経験が役に立った(?)話。それは、2016年にアメリカのオレゴン州ポートランドを取材した時のことだった。

 

 ポートランドはアメリカの北西部に位置する都市で、カナディアン・ロッキーを源流とするコロンビア川のほとりの美しい街。アメリカの西海岸といえばロサンゼルスやサンフランシスコをイメージしがちだが、このポートランドもここ数年でかなりの人気観光地となっている。

 また、ポートランドはアメリカで有数の「治安のいい都市」ともいわれている。そんな治安のいい場所に、危険地帯ジャーナリストの私が何をしに行ったのか。私の活動は、なにも都市空間だけを取材することだけではない。時には大自然に立ち向かう取材もすることもあるのだ。取材の目的は、「サスカッチを探す」ことだった。

 サスカッチとは、ものすごく簡単に言うと雪男のようなもので、北米では多くの目撃情報が寄せられているUMA(未確認生物)である。実は2015年頃、一緒にトレイルランをしていた飼い犬に装着したGoPro(小型のアクションカメラ)にサスカッチが映り込んでいたという証言が上がっていたのだ。当時としては最新の目撃情報。しかも証拠まであるという。オカルト記事をいくつも手がけてきた私は、興味を惹かれるままに取材しようと思い立ったのだ。

 

 サスカッチは冒険家、ハンターのみならず考古学者や人類学者にとっても格好の標的である。1840年に白人宣教師によって記録されたネイティブアメリカンに伝わる聖なる生き物「毛深い巨人」が、猿人やギガントピテクスの生き残りの可能性があるからだ。そのため、現在でもその存在を本気で信じ、探している探検家は多いという。

 そのせいか目撃情報は後を絶たない。今のところ推測されている身長は2~3メートル、二足歩行、筋骨隆々で顔以外は毛で覆われており、強烈な異臭を放っているのだという。

 中でも、1967年に撮影された「パターソン・ギムリン・フィルム」は有名だ。歩きながらカメラに向かって振り向く姿の映像を見たことがある人も多いのではないだろうか。この映像は、一部では捏造説もささやかれているが、それがサスカッチの実在説を否定するほどのものではない。雪男やサスカッチ系のUMAはネアンデルタール人やその亜種とする説もあることから、考古学とそこまで遠い存在ではない…はず……と私は思っている。

 

 そんなこじつけのもと、「サスカッチを探しに行きたい!」と週刊誌に企画として持ち込んだところ、担当の編集者から「行っていいよ」と太っ腹な返事をもらえ、アメリカへ行くことになったのだった。

 今でこそ自腹で旅することのほうを優先しているが、数年前までは、スポンサー(出版社の取材経費)ありきで旅することもあった。お金的にはだいぶ助かるのだが、それだけに、いざ企画が通ってしまうと本当にサスカッチを見つけるまで帰国はできないというプレッシャーがつきまとう。大口を叩いておきながら、軽い感じで「ダメでした」などと言おうものなら、確実に出禁になるだろう。そこまで個人的な興味をそそる取材でもなかったが、あれこれと下調べを開始することにした。

 

■UMAを探しに日本から来ました

 そして、できることはやったということで現地に乗り込んだ。現地で車を手配し、向かったのはマウントフッド国立森林公園である。このフッド山は「オレゴン富士」とも呼ばれる、姿の美しい山で、ポートランドの観光名所の一つ。富士山と同じくらいの標高があるが、夏場ならある程度の地点まで車で登っていくことができるので、UMA探索には非常に便利である。

 ただ、車の運転に慣れていない私のことである。サイドブレーキをかけっぱなしで走って車内に焦げた匂いを充満させたり、軽く接触事故を起こして当て逃げされたりというささやかなハプニングはお約束のように起きた。

 

 目的地は頂上に近い山荘「ティンバーラインロッジ」。スティーブン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督のホラー映画『シャイニング』(1980年)の舞台になった山小屋だという。

 

 「サスカッチ、探しに来たんですけど……あ、日本からです」

 受付でTシャツに薄手のパーカー姿の私が言うと、大爆笑。ひとしきり笑いものになったあとで「マジかよ?」的な反応とともに、「もっと下のほうじゃない」と言われた。単なるアホな子扱いだったが、そもそもよく考えればわかることである。

 そこで数百メートル標高を下げた場所まで下り、探索を始めることにした。森の入り口は特にない。木々の隙間に見える、けもの道をなんとなく進むことにした。

 だが、カーゴパンツのポケットに携帯とカメラが入っているだけで、あとはサブバッグに水と発見時のマニュアル(街の売店で購入した)を入れてあるぐらいの軽装備。本格的な登山の装備は何一つなし。もちろん、武器の類も所持していない。別にサスカッチと遭遇しても戦闘になるわけでもないだろうし、当然のことながら、その生態はよくわかっていない……というか、存在すらわかっていないからUMAなのだが。

 そういえば、ここに来る前にサスカッチ研究家のアメリカ人にコンタクトを取っていたが、返事は来たのだろうか。そんなことを考えながら森を歩く。サスカッチを探しながらひたすら歩く。サスカッチに直面しなくても、何かの痕跡はないだろうか。遺跡を探すように、何かの痕跡はないだろうかと目を凝らす……。

 

 車で一気に高地に来てから下ってみると、かえってわかることもある。それは、植生が変化したことである。高度が上がると、自生の植物は広葉樹から針葉樹へと変化する。そしてさらに上がると、地面の草がなくなり土が露出してくるなど、標高によって生えている植物が露骨に違うのだ。

 そうなると、生えている植物に応じて生息する動物も変わるだろう。つまり、山頂付近よりも低い場所のほうが、植物を餌にする動物が多く生息すると考えられる。そして、餌になる動物が多い場所にはそれを捕食する大型の生き物もいるはずだ。たとえば鬱蒼とした木々の中で……まさに自分がいるような場所だ。標高を下げたほうがサスカッチがいる可能性が高いとは、そういうことなのだろう。

 周囲の森も密度が濃いために見通しが悪い。まるで森に酔ったかのようだった。心なしか目の前のビジョンが歪んで回るほどにクラクラしてきた。酸素が薄いのかもしれない。そもそも、ここはどこなんだろう。すでに歩き出してからだいぶ経った気がする。