■考古学に触れている喜び

 現場に来るといろんな記憶の扉が開くものだと思いながら、調査員さんに挨拶を済ませた。そこでの太郎さんと調査員さんの会話は、どうにも懐かしい単語が混じった、考古的なものだった。

「センターにはいかれました?」

「ここの後で行きます。うちの学生たちはしっかり働いていますか?」

「土坑の数が多いので、図面を取れる人が来るのは助かりますよ」

 センターというのは、この調査を実施している山梨県埋蔵文化財センターのことで、土坑とは小さな穴のこと。土杭には遺物が落ち込んでいることもあるし、それ自体が柱を建てるために掘られた可能性もあったりするので、きちんと記録しなければならない。ただし、数が多いと地獄を見るので、慣れていない人にとっては、地獄への入り口のようにも見える。

 そこに図面を取っていた國學院大學の学部生と大学院生たちが寄ってくる。どうやら、取っていた図面を調査員に確認しにきたようだ。

「分層できた?」

「そのあたりを見てもらいたくて……」

「土説は、きちんと書いてね」

 この会話にも懐かしさと記憶の扉が開いた。分層とは、土を見て地層ごとに線を引くことで、土説とは、その地層の説明文のこと。学生時代は、この手の知的な作業をすることが派手でカッコいい作業だと思っていた。だが、調査員ともなると、間違いが許されない、かなり責任重大でヘビーな作業でもある。遺跡をとりまく地層がどうなっているのか、きちんと把握していなければならないからだ。

 そんなことを考えていると、自分が考古学に触れているのだという喜びが、あらためてこみ上げてきた。

「これこれ。こういうのが聞きたかった! これで原稿にもいい感じに書けると思います。ありがとう太郎さん!」

 思わず心の声が漏れた。すると、調査員さんが申し訳なさそうに言う。

「まだ調査中なので、外部には出さないでもらえますか……」

「これは公共事業だったんだ!」

 思わず叫んだ。今度は心ではなく、はっきりと口からだ。

 遺跡の発掘というのは、考古学者が趣味でやるものではない。あくまで行政が主導して予算を立てて実施している調査だ。山梨のように地方自治体が自ら実施するところもあるが、民間企業の遺跡調査会社に委託するところもある。私が渡り歩いてきたのは、そういう場所だったわけなので、行政との関係性は分かっていたはずだ。それなのに時の経過とは残酷なもので、すっかり失念してしまっていた。行政の事業で報告書すら出ていない調査をお手軽にルポというわけにはいかない(もちろん非公開というわけではないし、きちんと申請すれば対応してくれる。特に山梨県さんは柔軟な姿勢を見せてくれます。けっして私が申請するのが面倒になったとかのズボラだったわけではない!)。

 それなのに、こんな初歩的なミスをするとは、考古学者というよりも、ジャーナリストとしてケッつまずいた感じだ。それでも、ここまで見てきた考古学知識は、学生時代に覚えてすっかり忘れていたものばかり。サビが少し落ちた感じがしていた。いよいよジャーナリスト目線の考古学ルポが幕を開ける……気がする。

MASTERゴンザレスのクレイジー考古学
MASTERゴンザレスのクレイジー考古学

TBS系列の旅番組『クレイジージャーニー』で人気を博し、今ではユーチューバーとしても活躍する危険地帯ジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、これまでの取材を通じて見てきた「裏社会」と、学生時代に修士号を取得した「考古学」を融合させた「ハイブリッド考古学」の実証に挑む。自身の半生を振り返りながら持論を展開する渾身の紀行エッセイ。