文と写真・丸山ゴンザレス

 

■樹海で祈りの意味を探る

 富士山の信仰はバリエーションがある。浅間神社のように富士山そのものを御神体に見立てている場所はある。従来の信仰とは違うが、パワースポットとして人をひきつけたりもする。いずれにせよ今も続く信仰の対象である。

 

写真:東京・秋葉原にある富士講(富士山信仰のための社)

 

 信仰の対象としての富士山の全容を解明するために、山頂に行けば分かるというものではない。別に山に登るのが負担になるとか、そんな言い訳がましいことを考えていたわけじゃない。いや、本当に……。高い山に対して祈る側のポジションに引っかかっていたのだ。

 私は学生時代に専攻していた祭祀考古学(神道の成り立ちと発展を様々な角度から研究する國學院大學が提唱している学問)の中でも、「祈り」というものに興味があった。英語では「Pray」と表記して、どういう行為なのかは世界中で通用するが、対象や環境は異なる。神やそれに準じるものに手を合わせたりすることもあれば、お供え物をするために、普通は行く必要のない場所にまで赴くこともある。別にどこで祈ってもいいだろうに、小笠原諸島・北硫黄島(石野遺跡)のような絶海の孤島(しかも火山島だったりする)から祭祀の遺構が見つかった事例もあれば、北アルプス・剱岳の山頂(2999m)に残された錫杖のような祈りの痕跡だってある。いったい祈るとはどういうことなのか。祈りの意味をいつも考えていたのだ(こういう真面目なことだって考えるのだ!)。

 

 そして日本の最高峰である富士山やその周辺からも、先史の時代から信仰の対象とされてきた遺構がいくつも発見されている。いったい富士山は、日本列島に住む人間にとって、どのような「祈り」の対象だったのだろうか。それを知ることこそが、考古学の原点であると、山梨県立考古博物館の学芸員・小林さんの「富士山は“遺跡”」という言葉から、直感的に思ったのだった。

 そんなことを考えていたタイミングで、旧知の仲であるルポライターで漫画家の村田らむ氏から連絡が入った。

「例の件、どうしますか?」

「はて……何かありましたっけ?」

「樹海っす」

 

 樹海とは、富士山麓(上から見ると北西あたり)にある青木ヶ原樹海のことだ。山梨県富士河口湖町と鳴沢村にまたがった一帯の巨大な森林の通称である。

 ここは、富士山が噴火(864年の貞観大噴火)して流れた溶岩の上に自生した森林で、「自殺の名所」としても有名な場所だ。実際問題、自殺に適している地形になっている。起伏があり、周囲から見えにくい窪地も多いし、樹木の背も低いものがあるのでロープもかけやすい。都市伝説的に方位磁石が狂うといわれ、この樹海に入ったら出ることはできないという俗説まで広まっているが、実際はそんなこともないし、スマホでもGPSを利用した位置情報を把握できるため迷うことはない。それよりも、溶岩地帯という複雑な地形が認識を狂わせてしまうために広まった噂だろう。

 

 

 村田らむ氏は樹海のエキスパート。『樹海考』(晶文社)という本まで出版するほどだ。内容はかなり濃いめなので、これ一冊で樹海を知ることができる。そんな彼と何か月も前からグループで取材をしに行くことを計画していたのだ。

「ああ、樹海ですね。行きますよ。あったり前じゃないですか! めっちゃ楽しみにしてましたよ」

 

村田らむ氏(左)×丸山ゴンザレス(右=筆者)

 

(やっべ~~~)

 実はすっかり忘れていた。2018年の秋頃は、南米やらタイなんかを飛び回っていた時期。国内の取材については、すっかり忘却の彼方だ。予定の一つや二つ、覚えてなくても仕方ないのである。許されるでしょ? そうでしょ? お願いします。許してください!!

「もちろん準備万端ですわ……」

 準備などしているはずもない。ので、慌てて準備に取り掛かる。

 樹海歩きというのは、何度かやったことがある。先ほどから、ちょいちょい知ったふうな言い方をしてきたのはそのためだ。当時はろくな準備もしないでアタックしていたため、手酷い失敗もした。そのときの経験を踏まえて用意したのは次の通りだ。

 動きやすい服、タオル(汗拭き用)、着替え、トレッキングシューズ、雨具(ポンチョ的なカッパ)、軍手、飲料水、食料(おにぎりやサンドイッチなど。弁当箱は不可! 歩きながら食べるか、立ち休憩がほとんどのため)、ライト、樹海地図といったところ。


 シューズについては、遺跡発掘調査での経験から導き出した。現役時代、履きつぶす前提のボロいスニーカーか、ソールの厚いトレッキングシューズを愛用していた。山梨の発掘現場に行って記憶もリニューアルしたので間違いないはずだ。

 遺跡の発掘現場は、足元が不安定なこともあれば、土だったり岩場だったりと、とにかく様々。何にでも対応しないといけないうえに、土を運んだりするので、足の指のグリップが効くものがいい。樹海でもその感じで選んだ。

 ちなみに、発掘現場では長靴の愛用者も多いが、靴底が安定しないので、個人的にはオススメできない。ラバーソールでクッション性も高いものなら、一見するといいように思えるが、その一方で長距離を歩くのに向いていないのだ。長靴は、雨の日や、ぬかるみでの作業など、天候面に左右されるときのチョイスになる。