(人工物か?)

 さすがに遺跡とは思わなかったものの、少し観察する必要があった。というのも以前、樹海の中に風穴という天然の冷蔵庫の跡があるという話を聞いたことがあったからだ。それかもしれないと思って近寄ってみるが、人工的に組み合わせたものではないと分かる。接地面に無駄な空間があり、人の手によって積まれたものではなかったからだ。中世の山城や城郭を見たことがあればすぐに分かるだろう。だが、まったくの素人ならどうだろう。これが人の作ったもので、遺跡だと思い込んでも不思議ではない。案外、さきほどの樹海に飲まれた超文明説はこういったところから生まれたのかもしれない。一つの都市伝説に終止符を(自分的に)打つことができた気がした。

 

青木が原樹海にある富士講石碑=村田らむ氏撮影

 

 人の痕跡といえば、現代人が残したもののほうが目についた。このときの探索で見つけたものは、木の枝にぶら下がった輪っかに結ばれたロープ、朽ち果てたカバンや靴、それに、テントが2つ。そのテントを覗き込んでみると、食料が置かれた状態であった。

 テントを見つけた際に、同行メンバーの一員である生粋の樹海マニア・Kさんが、いかにもマニアらしいことを教えてくれた。

 

「こういうところにいる連中は何をするか分からないので、一人で歩いているときに見つけたら、いつも催涙スプレーを構えるんです」

 

写真左側、木に結ばれたロープが下がっている

 

 ……その付近で、なんとなく足を止めて休む流れになった。ようやく訪れた立ち休憩の時間。悲鳴を上げていた足を労わりたいところだが、もっと優先しておきたいことがあった。先ほどから私の頭に引っかかっていた、裏社会にまつわる危険な記憶の謎について、Kさんに話してみた。

「火をたいていたのは、マニアな連中だと思うよ。死体で遊ぶヤツらもいるからね」

「そんなヤツ、本当にいるんですか?」

「いるよ。何人かで行動しているんだ。どんなことに巻き込まれるか分からないから、僕は見かけても近寄らないけどね」

 樹海には死体で遊ぶマニアだけでなく、死体の遺留品から金目のものを盗み出す輩までいるそうだ。

「じゃあ、喫茶店での会話についてはどう思いますか?」

「クリエイターじゃないかな」

「といいますと?」

「死体&樹海マニアの間じゃあ、死体を生み出す人たちのことをそう呼ぶんだ」

「上手いこと言いますね……とは言い難いですね」

 思わず苦笑い。

「俺が見聞きしたようなことって、ありえることなんですか?」

「どっちもあるし、そういう死体なら、むしろお目にかかりたいよね」

 死肉を漁るスカベンジャーも真っ青になるタフなマインドを持つKさんだった……。

 樹海のプロの凄みを体験とすると同時に、富士山が遺跡だということにも納得がいったように思った。

 まず、縄文から古代、歴史時代と永きにわたって霊山として崇められてきた富士山への登山は命がけのイベントだった。修行僧が足を踏み入れる以外は、遠くから眺めて祈る信仰の対象となってきた。その後、江戸時代になると庶民にまで富士登山が広まっていくが、莫大な費用と時間を必要とする大冒険であることには変わらなかった。交通網や登山道が整備されたごく最近まで、大半の人々にとって、富士山は登るものではなく遠くから見るものだった。

 今回の取材でも山麓の溶岩地帯を歩いてみて、自然とは厳しく、人間が入り込める場所は限られていることを思い知らされた。道がないと人間はわずか100メートルを進むのに1時間近くかかることもある。迂回したり、後退したり、まっすぐに進めないことがこれほどストレスになるとは思いもしなかった。


 近寄れないからこそ、祈りの痕跡が周辺にある富士山を遺跡と呼ぶには十分な根拠である。遺跡や神社の分布範囲が広いため、少々分かりにくいところがある。そして、この分かりにくさこそが、自然とともに生きてきた時代の特徴なのかもしれない。現代人が忘れ去った感覚をもっていたということなのだろう。

 その反面、普段暮らしている人間が作り上げた都市というのがいかに不自然であるのかが身にしみてわかると同時に、人間にとって最適化された空間が都市なのだと思った。不自然な場所だから自然の驚異から身を守れるのだ。

 さて、自然に触れてみて、その脅威と、それに対する信仰心を理解するという、考古学を研究するうえでの原点に立ち戻ったところで、次回からは、あらためて都市に対するアプローチをしてみたい。考古学目線で都市に生きる人間の営みを見ていくことから、いったい何が見えてくるのか。それはこの先、私が考古学に復帰していくプロセスで必要になるテーマのだと思う。

 この先、どんな旅になるのか、今しばらく、お付き合いいただきたい。

MASTERゴンザレスのクレイジー考古学
MASTERゴンザレスのクレイジー考古学

TBS系列の旅番組『クレイジージャーニー』で人気を博し、今ではユーチューバーとしても活躍する危険地帯ジャーナリスト・丸山ゴンザレスが、これまでの取材を通じて見てきた「裏社会」と、学生時代に修士号を取得した「考古学」を融合させた「ハイブリッド考古学」の実証に挑む。自身の半生を振り返りながら持論を展開する渾身の紀行エッセイ。