文と写真・丸山ゴンザレス

 

 ジャーナリストをしながら、作家や編集者として出版業界に軸を置いた活動をしていると、この業界には「残念な法則」があることに気づく。それは「考古学をテーマにした本は、特に売れない」ということだ。

 今さら説明するまでもないが、「出版不況」といわれるようになって久しい。だが、そんな厳しい状況にあって、考古学の本は特に売れないジャンルだと思う。理由は(あくまで個人的な見解ではあるが)明らか。

 ロマンチックが止まってしまうからだ。

 関連書籍と言い切っていいのか微妙だが、雑誌なら『ムー』のように、オーパーツや超古代文明などを扱ったオカルト系の考古学本などは、一部で堅調な人気はあるが、考古学をメインテーマにして話題になった著作物といえば、ジャーナリストの立花隆氏が旧石器捏造事件、いわゆる“神の手”事件を追った『緊急取材・立花隆、「旧石器発掘ねつ造」事件を追う』(2001年、朝日新聞社)ぐらいなものだろう。

 そのほか思い浮かぶところでは、漫画なら『スプリガン』は、古代遺跡やオーパーツが登場するが主人公は戦闘員だし、『MASTERキートン』は考古学者が主人公ではあるが考古学自体はメインテーマではない。「インディ・ジョーンズ」は、エンターテイメント映画としては世界的なヒットとなったが、そもそも本ではない。

 

 こうやって見てくると考古学がテーマに組み込まれた作品で人気があるものには共通点がある。それは、専門家である考古学者が執筆していないということ。つまり、学問的には「厳密じゃない」ということだ。

 たとえば『スプリガン』では、前回に当コラムで取り上げた、富士山の溶岩に沈んだ超古代文明が登場する。それは、自分の足で歩いたことがあるだけに、考古学的にはあり得ないことだと実感できた。

「富士山麓に超古代文明ってあるんですか?」

 こんな質問をされたなら、こんなふうに返事をするだろう。

「超古代文明とかあり得ないです。遺跡のように見えるものは、溶岩の堆積と風化のもたらす錯覚でしょう。百歩譲って噴火による被害を考慮しても、周辺に関連施設の発掘事例が何もない以上、溶岩の下に都市が埋もれてしまったとも考えづらい」

 

富士樹海には人工物に見えるような自然物がある

 

 幻想を盛り上げることもなく面白みに欠けており、完全にロマンチックが止まっている。考古学をかじった者の返事としては正しいはずだが、正しいことは面白いわけではないのは明らかだ。

 専門家のみならず、このあたりの面白さを重視する姿勢には、異論反論はあるだろう。私としてはこの学問の特色でもある「厳密さ」のような正しさを追求する姿勢にこそ、考古学をエンタテインメント的に普及させるための足枷があると思っている。もちろん厳密に追求するから面白いという考古学の魅力もあるのは間違いない。ただ、それでは本気で学者を目指す人しか考古学の面白さを享受できなくなってしまうのではないかという懸念がどうしても拭い去れない。

 

 さらに重ねて言わせてもらえば、プロではなくアマチュアならば楽しみを優先していいと思うのだ。超古代史のような歴史マニアやオーパーツ好きの人が中途半端な考古学の知識で趣味的に都合のいい解釈をするのは良くないという風潮が、プロの考古学者には根強くある。確かにその通りなのだが、学術と趣味とでは、そもそも目指しているところが違う。知られないよりは知られたほうがいいと、かつて考古学どっぷりの世界からドロップアウトした私なんかは思ってしまうのだ。

 前置きが長くなったが、結局のところ、研究者でもしていない限りは、好きなように学んだところで、考古学という学問の価値は何ひとつ損なわれるところはないということ。むしろ、もっと丁寧に噛み砕いて伝えていくことができれば、面白さだけではなく、先人たちが蓄積してきた学問としての奥深さが伝わっていくと思う。私が考古学を専攻した当時は、インディ・ジョーンズやキートンに憧れている同期が多数いたし、そんな連中の中には現在、考古学者として活躍している奴らがたくさんいるのだ。

 

 ということで、今回からしばらく、考古学の基礎をなるべく分かりやすく、そして面白おかしく紹介していきたいのだが、「お前にできるのか?」と、問われると困ってしまうところもある。ノンフィクションを書いていて、トップクラスに難易度が高いと感じるのは基礎の説明やシステムの紹介である。ここに考古学が抱えているロマンチックが止まってしまう現象も加わってしまうので、さらにハードルが高くなる。

 そこで、自分にできる範囲での噛み砕きに注力するため、厳密な学問の基礎というよりも、私が考古の現場で経験してきたエピソードを中心に、考古学の基礎的な部分をお伝えしようと思っている。

 考古学研究の土台を形成するのは、大きくわけると、ガテン系な「発掘」作業、引きこもる「整理」作業、学者っぽい「報告書」作業という3つのパート。今回は、その中の「発掘」について解説していこう。

 

遺跡の発掘現場