更衣室の奥の扉を開くと、そこがサウナ室。真新しい木材の香りと炭火の香り、うっすらとティートゥリーのアロマオイルの香りが混じっている。サウナ室は正面(船尾側)と左奥に向かって二段のひな壇式になっていて、詰めれば15人ほど腰掛けられそうだ。右手は大きなガラス窓になっていて、その手前にはサウナストーブが設置され、煙突が天井を貫いている。

 温度計を見ると、室内はまだ75℃でぬるいくらいだ。それでも、ガラス越しに次第に明けていく空を眺め、サウナの最上段に腰掛けているのは悪くない。5分ほどで本日の予約者全員が揃った。20~40代の男性が3人、20代の女性2人、初老の男女カップルが二組、そして僕、総勢10人。うち6人が地元客だが、仕事でオスロに赴任しているというアメリカ人とドイツ人の男性、カナダ人の女性、そして僕が混じっていたため、室内の会話は自然と英語になった。

 自己紹介を兼ねた会話をしていると、係の女性が入ってきて、サウナストーブに薪を数本くべた。すると室温がグンと急上昇した。次に彼女が熱せられたサウナストーンにひしゃく3杯の水をロウリュすると、「ジョワー〜!ジャァ〜!」と蒸気が上がった。それから彼女が手に持っていたタオルをブンブンと振り回し、室内の空気を更に循環させると、熱気がドバーっと僕の全身に襲いかかってきた! 

 熱い! 鼻の粘膜は火傷しそうだし、もう目を開いてもいられない! これは一気に95℃を超えたのでは?! 目をつぶって口と鼻をタオルで覆って、さらに5分ほど全身が真っ赤になるまで耐えてから、サウナ室から飛び出した。

 

(左)サウナ室のベンチは二段式。ベンチの下に間接照明があるのが雰囲気良いね (右)そしてこちらがサウナストーブ。外はだんだんと空が白んできました!

 

 甲板に出ると、目の前で初老のカップルが海にザボンと飛び込んでいた。水温は摂氏4℃で、三日前に訪れたタンペレの『ラウハニエミ・サウナ』(連載#104)の水温は2℃だったので、それよりは温かいが、オスロは外気温がマイナス4℃とかなり低い。甲板に立っているだけでも身体は冷えてくる。

 それにここはフィヨルド地形で、埠頭沿いでも海はかなり深いはず。心臓麻痺を起こして、そのまま溺れたらどうしよう? だが、ここで飛び込まなかったら来た意味がない! 意を決して足からザボンと飛び込んだ。

 海はもちろん足が届かない深さだった。数メートル沈んでからそのまま浮かび上がってくると、十秒前まで火傷しそうなほど熱せられていた身体が急激に冷やされ、滞っていた血流がドバーっと開くようで、海に浮かびながら笑いが止まらなくなった。これはランナーズハイに近いかも。

 次に水から上がると、今度は冷えすぎで全身がジンジンと痛くなる。それを耐えて乗り越えると、最後にはなんともいえないジワジワとした快感が訪れる。要は「トトノウ」ってやつだ。これはやみつきになる~!

 

10分ほど我慢して、甲板に出ると地元の夫婦が先にフィヨルドにダイブしてました!
そんな訳でオレもダイブ!(ただし、足から)
冷たい海から上がると、全身が痛い!痛い!

 

 再びサウナ室に戻り、10分のサウナ、ロウリュ、フィヨルドへのダイブ、甲板でチルアウトを合計4セット繰り返すと、全身がポカポカになり、脳がビカァっと覚醒した。今日のところはこれで十分だ。十分すぎるほどトトノった。

 

ダイブを数回繰り返して、やっと溺れる心配なくプカプカ浮かべるようになりまスた!
フィヨルドの幻想的な風景

 

 それにしても一国の首都、大都市に面した海が泳げるほど透明というのは素晴らしい。東京湾とは全然違う! 同席したお客から聞いたところでは、工業地帯だった頃は海水が汚染されていたが、早くから水質保全活動を行ってきたことで、21世紀初頭には泳げるほどに水質が改善された。そして、海に面したサウナはほんの数年前に始まった新たなトレンドとのこと。

 なるほど、オスロでは、タンペレのようにサウナが伝統という訳ではないのか。そうだとしても、大都市にいながらにして、フィヨルドにダイブ出来るサウナを楽しめるなんて、世界広しといえどオスロだけじゃないだろうか?