文/チョン・ウンスク

 

 今回から数回に渡って、映画の話題を取り上げたい。最初の映画は日本の劇場やネットの配信サービスで公開中の韓国映画『チャンシルさんには福が多いね』について。

 物語の主人公は、長年連れ添ってきた映画監督の急死で失職した映画プロデューサー、チャンシル(40歳)。金も家もコネもなく、すがりつこうとした男性にも受け入れてもらえなかった女性が、もがき苦しむ話だ。



 私はあまり映画から教訓を得ようとしないタイプだ。ストーリーやメッセージより、撮影地や風物に着目しがちである。しかし、本作では主人公チャンシルと自分を重ねてしまったせいか、劇中のセリフや歌詞に感じ入る点が多々あった。

 

失業した主人公の引っ越し先はソウル郊外にあるタルトンネだった。映画ではチャンシルと仲間たちがこの坂道を登っていく場面があった
チャンシルが新居(ユン・ヨジョン扮するハルモニ宅の間借り)を出入りする際、よく映っていた向かいの家の壁画

 

■『チャンシルさんには福が多いね』、珠玉の言葉たち

随所に主となれば
立処、皆な真なり
(どんなときにも自らの足で立てば、そこにあるものすべてが真実である)

※チャンシルが家政婦の仕事を始めた家にあった本に書かれていた一節

♪つらい世界で生きるなら
 おまえの希望は何だろうか?
 富と栄誉を手に入れたら
 希望に満ちるのだろうか?

※チャンシルの鼻歌

チャンシル「私はまた映画を作ることができるかしら?」
自称・張國榮「問題はそこじゃないですよ」
チャンシル「じゃあ何が問題なの?」
自称・張國榮「自分が本当に望んでいることが何か、それがわかっていないことが問題でしょう?」
チャンシル「わかってるわよ」
自称・張國榮「不是! わかってないですよ。だから(好きでもない)男にすがって現実逃避しようとしたりする。でしょ?」
チャンシル「……図星だわ」

※チャンシルと自称・張國榮(レスリー・チャン)の会話

私たちが信じたいものを
成したいことを
見たいものを

(チャンシルの独り言)

 

 これから映画を観る人も多いと思うので、上の言葉ひとつひとつについての詳解は避けるが、私は自分の中で曖昧模糊としていたものが明確になったような気がした。それを言葉にするとしたら次のようになるだろう。

 

 3Gを4Gに、4Gを5Gにするような横着を捨てよう。

「世間並み」や「目先の競争心」から自由になろう。

 

 私が十数年前から、時代遅れの酒であるマッコリに惹かれたり、シュポのような名もない大衆酒場に通ったりしたのも、そんな心の声の発露だったような気がしてならない。

 

チャンシルの新居は地下鉄3号線「弘済」駅から07番マウルバスの終点「ケミマウル」というタルトンネにある
「ケミマウル」については新刊『旅と酒とコリアシネマ』(7月21日よりamazonで発売。予約受付中)に詳しく書いた。訪韓が解禁されたら、ぜひ訪ねてみてほしい
旅と酒とコリアシネマ
旅と酒とコリアシネマ

韓国映画に登場する魅力的なキャラクターや俳優の話。撮影地(ソウルや釜山、田舎町)の話。そして、お酒の話も少々……。ソウル在住の女性紀行作家チョン・ウンスクが、2020年以降旅にも自由に行けず閉塞感を感じているみなさんに心の翼を提供します。

(つづく)