文と写真/室橋裕和
北関東は知られざる移民の宝庫なんである。茨城、栃木、群馬、埼玉……おもに工業団地で働くアジア系、南米系の外国人たちが、各所で小さな、そして濃密なコミュニティをつくっている。そこでは東京都内では食べられないローカル・エスニックと出会えるのだが、今回は茨城県の神立へとやってきた。
■田舎町でも外国人の多い北関東
茨城県の南部、霞ケ浦も近い土浦市の一角。JR常磐線・神立駅で、僕は電車を降りた。「かんだつ」と読むらしい。都内からは1時間ほどの旅だった。遠くに見えるのは筑波山だろうか。駅のまわりには商店街らしき賑わいもなく、住宅街が続く。首都圏郊外のどこにでもありそうな佇まい……と思いきや、妙に外国人の姿が多い。自転車に乗ってどこぞへと走っていく東南アジア系の人々が目に付く。留学生だろうか、それとも技能実習生だろうか。
そして駅から西へ伸びる道を5分ほど歩いていくと、インパクトのある看板が現れる。
『ハラールラーメン117』
ここが近隣の外国人、それに日本人にも人気となっている店らしい。

■礼拝室まで備えたラーメン屋
「いらっしゃいませー!」
のれんをくぐると威勢のいい声がかけられる。ご主人のインドネシア人スマルノさんだ。ここはインドネシアと日本の味がフュージョンしたラーメン屋なんである。
店名にもなっている通り、メニューはすべてハラル(イスラム教の戒律に則り、食べることを許されたもの)だ。豚肉や豚由来の調味料などは使っていない。アルコールも同様だ。インドネシアはイスラム教徒の多い国だが、スマルノさんもそのひとり。そして神立近辺には、意外にもインドネシア人がたくさん暮らしているのだという。
「近くの工場で働いている実習生ですね」
とスマルノさん。彼らのほかにも、店にはさまざまな国からやってきたイスラム教徒が訪れる。だから店内には、和室を改装した礼拝室まで用意されている。食事のついでにお祈りもできると重宝されているらしい。
「バングラデシュ、エジプト、インドやスリランカのイスラム教徒のお客さんもいらっしゃいますね。口コミで広がってるようで、茨城だけでなく群馬や栃木、静岡から来てくれる人も」
と教えてくれたのは、スマルノさんの奥さまマイさん。結婚を機に改宗した日本人女性だ。インドネシアと日本の夫婦が切り盛りしている店なのだ。
