「都会を離れ、自然豊かな環境で働きたい!」

 最近、若者たちの間でこんな考えを持つ人が増えてきている。新型ウイルスCOVID-19によるパンデミックで都会生活の不自由さが露呈し、ニューノーマルな働き方が注目されたことも影響しているのかもしれない。

 ストレスの多い都会の暮らしから脱出し、できることなら自然に触れあえるような仕事がしたいと思う人も多いだろう。大自然の中の一軒家を買って自給自足の生活を送る、などというのも一つの選択肢かもしれないが、文明の利器に頼りフツーの生活を送る一般人には相当ハードルが高いように感じる。

 この1年でリモートワーク化が進んだが、まだまだ難しいことも分かってきた。都会を離れても今いる会社で働ける人は一部の大企業やIT企業などの限られた職種であり、どんな職業にも当てはまる訳ではない。地方に移住して就職し、サラリーマン生活を送るという手もある。ただ、都会並みに求人があるかといえば、そうは言えないのが現実だ。自然豊かな環境で働くというのは、夢物語なのだろうか。

 

 ここに、ある企業のホームページの求人欄を抜粋する。

【勤務時間】 8:00〜17:00
※休憩60分、実働8時間 ※時間に応じて変動あり/時間外あり(月20時間程度)
【休日】 日曜・祝日・隔週週休二日
※繁忙期は出勤になる場合あり(5月頃)/長期休暇:あり(正月・お盆)
【待遇】賞与あり(実績に応じて)/社会保険完備/通勤手当あり/資格取得補助制度あり(大型特殊免許等)/アニバーサリー休暇有り(結婚記念日・子供の誕生日等)/SW(サマーウィーク)休暇有り(GWの代休)

 

 「フツーじゃないの?」

 そう、普通です。でも、これが農業の会社だと言ったら、ちょっと驚くのではないだろうか?

 

 農業と聞くと、「アメニモマケズ、カゼニモマケズ…」なんてイメージがあり、朝早くから夜遅くまで働き、季節や天候に左右されて、休む暇などないじゃないかと思う人が多いかもしれないが、この会社は違う。なぜならこの会社、「一般的な企業」を目指しているのだから。

 求人を出しているのは、宮崎都城市に本社を置く株式会社で「ベジエイト」という農業生産法人である。

 

 「これまでの農業は、1から10まですべてを行なってきました。畑を耕し、肥料を購入し、作物を育て、収穫し、販売する…。これでは休む時間もないし、生産効率も下がるんです。例えば、販売ルートを確保しようにも、農作業が終わってからになるので、相手先の営業時間が終わってしまいますよね。だから新しいことにチャレンジしづらい。悪循環なんですよ。それなら、営業部門と生産部門を分ければいいんじゃないかと…。ウチの会社ではそれを実践しているんです」

 

 こう語るのは、ベジエイト株式会社の専務取締役、重冨裕貴さんだ。東京から都城へ戻り、父親の重冨保さんが起業した会社に就職した。2012年4月のことだった。

 

 「外で何かをしたかったんですよ。宮崎というか、日本を自分でどうにかしたいとずっと考えていました。僕は中学の時から地元を離れたんですが、大学進学で上京し、そのまま東京で就職しました。当時は地元に戻ることは考えていませんでしたが、農業にはチャンスを感じていたんです。父が会社を立ち上げたことが契機でしたが、農業を“終の職業”にと考えて都城に帰ってきました」

 

 キツイ仕事という印象のある農業だが、会社組織として分業制にすることで、勤務時間や休日を定めることに成功した。裕貴さん自身もあえて現場(畑)には出ず、会社運営に専念することで従業員の働きやすい環境を整えたという。特に力を入れたのがリクルート活動で、社会保険完備、通勤手当支給、アニバーサリー休暇やサマーウィーク休暇の制度を設けるなど、就職先として魅力を感じてもらえるようにしたのだ。 

 

 そして4年前には、東京で働いていた弟の貴哉さんのリクルートにも成功する。常務取締役の重冨貴哉さんだ。

 

■兄弟だから実現できた高成長

 

「僕は兄とは少し違って、いつかは地元にという思いはずっとあったんです。大学を出て、東京の会社に就職しましたが、仕事で地方を回ることも多く、農業への関心は強くなっていったんです。そんな時に兄から誘われ、農業を終の職業にしたいという考えに共感して、戻る決心をしました」

 

 貴哉さんが加わったことで、裕貴さんは経営者としての仕事に専念できるようになったという。農業の世界では今でも「現場に行ってなんぼ」という考え方が強いが、重要なのは経営陣がいかに生産現場から抜けるかということ。貴哉さんがその役割を担うことで、分業制を円滑に進められるようになったそうだ。そして、これまでの農業の概念を覆す施策を次々と実施し、従業員の働く環境を整備していくと、創業から9年で、2200%(売上高)の成長を遂げた。