「台湾ロス」のみなさんへ〈3〉

文・光瀬憲子

 

 

■礁渓。台湾でもう一度暮らすならこの町 

 

 次に台湾で暮らす機会があったらここと決めている場所がある。宜蘭県の礁渓という街だ。海と山と温泉があり、野菜が美味しい。礁渓に立ち寄るときはなぜか晴れの日が多く、冷え切った体を温泉で温めるというより、汗を流し、歩き疲れた足をほぐすことのほうが多い。

 穏やかで温かい気候が人を温和にするのだろうか、礁渓の人たちはどこかのんびりしている。列車の旅でふらりと立ち寄るには絶好の「途中下車駅」だ。

 

 

 街中を散策するとき、看板にハッとさせられることが多い。年季が入った味のある看板を見かける襟を正したくなる。店の「のれん」が守られていることに感動するのだ。礁渓の街で思わず足を止めたのは「粽」という一文字だけの看板。その名の通り、粽(チマキ)だけを扱う店。店頭には粽がぶら下がり、並べられ、そして鍋で蒸されている。祖母の代からの店だと笑顔を見せる店主は私と同年代だろうか。粽を大事そうに扱う彼の手つきに、看板と同じ潔さを覚え、感動する。

 

 

 台湾人のソウルフードと聞くと思い浮かぶものがいくつかある。豚肉やモツなどを醤油で煮た滷味(ルーウェイ)もそのひとつだ。それは日本人にとっての肉じゃがのような存在かもしれない。一般家庭で作られることは少なくなったが、屋台や食堂の定番で、店自慢の滷汁(煮込み汁)に茶色く染まった豚肉や豆腐が浮かんでいる。

 礁渓駅からだいぶ離れた川沿いの通りに突然人だかりのできる店が現れる。アメ色に煮込まれた大腸や豆腐はフードポルノ選手権上位入賞まちがいなしのビジュアルだ。相席した地元客と言葉を交わしながら滷味をつついていると、礁渓の住民になったような気分になる。