■バンコクでのホテル隔離生活

 

 タイのバンコクでのホテル隔離がはじまった。隔離ホテルとして代金を払ったのは、民主記念塔に近いロイヤルラタナコーシンホテルだった。歴史のあるホテルだが、老朽化が進み、バンコクの中級ホテルに格をさげていた。隔離ホテルのなかでも最安値グループ。2週間の宿泊代に1日3回の食事、2回のPCR検査などを含め、10万円ほどが必要だった。

 ホテルのスタッフ、新型コロナウイルスの検査などにかかわる看護師など、隔離をコントロールする人たちは、一切、部屋に入ってこなかった。いや、感染の拡大を防ぐために入ることができなかった。部屋には隔離期間中に必要な水、トイレットペーパー、食器、洗剤などがすでに用意されていた。

 その状況は、頭では理解できたが、ドアの外に出ることができない環境に体が反応しない。目覚めて顔を洗うと、「朝食でも買いにいくか……」などと着替えをはじめ、「そうか、ドアの外へは出られないんだ」と反芻することになる。

 朝の日課はまず、体温測定だった。部屋には日本ではあまり見かけなくなった水銀を使った体温計が置かれていた。

 36.2。その日の朝の体温をラインで送る。しばらくすると、ラインのキャラクターが送られてくる。ウサギのコニーである。それがぐるぐるまわって、「Thank You」。

「こんなもので……」

 と66歳の日本人は呟くのだが、その声に反応する人は誰もいない。隔離状態のなかでは、返信のコニーを待ってしまうような心理に変わっていく。

 この体温測定の結果は、朝と夕方に送信しなくてはならなかった。ずっと部屋にいるというのに、つい忘れてしまうことが何回かあった。

 すると2時間ぐらいして電話がかかってくる。英語で、測定結果が送られてこないことを伝えてくる。そのあたりはなかなかしっかりしている。

 意図的に結果を送信しなかったことはなかったが、ひとり部屋にいて、電話がかかってくると、なにかほッとすることもあった。「僕は忘れられてはいない……」という安堵の電話だった。

 

体温をラインで送ると、コニーのキャラクターで受けとったという意味の返信。ちょっとタイらしい?