■祖父はインドネシア残留日本兵

 ニッキさんが日本に来たのは、もう23年前になるという。人生の半分以上を日本で過ごしているが、その理由は意外なものだった。

 

「お爺さんが、日本人なんだ」

 彼の祖父は、第二次大戦後もインドネシアに留まった日本兵なのだという。あの時代、日本は敗戦と同時にインドネシアを含む占領地をすべて手放したが、すぐさま旧宗主国のオランダが乗り出してきた。再植民地化を試みるオランダと、日本からの独立宣言をしたばかりのインドネシアが軍事衝突。4年間に渡り戦争は続いた。

 この「独立戦争」に、一部の旧日本兵が帰国することなく参戦したことはよく知られている。インドネシア独立のために兵士の育成から作戦指揮まで行い、実戦に身を投じた日本兵はおよそ900人と見られているが、そのひとりがニッキさんの祖父なのだ。

「お爺さんは現地の女性と結婚して、そのままインドネシアで暮らしたんです。一度、1970年かな。日本に帰ったことがあるんですが、死んだことになっていて戸籍が消えていたってびっくりしていたそうです」

 そんな縁から、ニッキさんも日本を志すようになる。日系人ということで、ビザが取りやすいのだそうだ。

 念願の祖父の国へとやってきたわけだが、その頃の日本は外国人はいまほど多くはなく、イスラム教徒も少なく、ハラル食材の店もほとんどなかった。数少ないハラルショップが上野のアメ横にあったのだが、そこに買い出しに行くため週末になると日本全国からイスラム教徒がやってきたもんだ、とニッキさんは懐かしそうに話す。

 そして4年ほど前に広島から神立に移住してきて、2018年にスマルノさんたちインドネシア人の友人たちとモスクを建立した。

「金曜日になるといろんな人が集まってきますよ。インドネシア人の実習生が多いけど、ほかにもパキスタン人とかバングラデシュ人とか、いろいろです」

 モスクといってもイマーム(礼拝などの指導者。お坊さん的な存在だろうか)がいるわけでもなく、手づくりで運営されている。礼拝なども思い思いだ。宗教施設でもあるが、地域の寄り合い場といった感じなのだろう。

 

日本に来て23年というニッキさん。奥さんが営む移動スーパーの内部にて

 

■ハラル食材の移動スーパー!

 モスクを案内してくれたニッキさんは、最後に自分のトラックを見せてくれた。後部の扉を開け放つと、僕は思わず「おおー!」と声を上げた。いくつもの棚が設置されてインドネシアの食材がびっしりと並び、まるで小さなコンビニだ。冷蔵庫もあって肉や魚が保存されている。流しもある。

「奥さんの仕事なんだけどね。土日は手伝ってるんだ」

 ハラル食材の移動スーパーなんであった。ちゃあんと国や県からの営業許可証も貼られていて、これで茨城県内のインドネシア人やイスラム教徒のコミュニティを回っているのだそうだ。なかなかに面白そうな仕事じゃないか。

 細かく仕切られた棚にはインドネシア料理には欠かせない調味料のサンバル、ココナツミルク、スパイス、インスタント麺にお菓子、ジュースなどなどたくさん揃っていて、見ているだけでも楽しい。発電用のソーラーパネル完備、さらに雨が降ったときでもお客が濡れずにトラックに上がれるよう、テントも用意されている。優れモノなのであった。

 こんなトラックが、いまや北関東だけでなく日本各地を走り回っているのだ。日本人の知らない日本の姿なのだろうと思う。

 

ハラル食材を満載した機能性充実のトラックは男子の心を揺さぶる

日本の居酒屋の合間にフィリピンの店が同居し、その前をハラル食材の移動スーパーが走る。これがいまの日本だ

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