農家総出で繰り広げられる寸劇と、800人の大ディナー

   翌日曜日は、村の広場から畑に隣接したスポーツ競技場へ舞台を移し、巨大な脱穀機を回しながらの脱穀作業と農家総出の寸劇が行われた。ようやく確認できたプログラムでは、前夜と日曜の朝にもトラクター競技やバーベキューなどの楽しい催しがあったようだが、暑さに弱い私は日が傾くのを待ち、最終日の夜のディナーに合わせて出かけた。盛り返った土の香りが漂う畑の隣で当時の農耕具を使った脱穀作業が続く中、農民の日常生活の一場面を切り取ったコメディの寸劇が始まった。役者は全員、この地域の農民たち。昨日広場で見かけた俳優たちが主役だ。見物客も顔見知りがほとんどなので、劇の最中にも野次やからかいの言葉が飛び交って、見る人も演ずる人も大爆笑に包まれている。

 

農家のファミリー総出のコメディは大成功。素人とは思えない徹底した役者ぶりの農民たちの熱演に脱帽。近隣の住民も通りすがりの観光客も、老若男女一緒になって大笑い。土の香りに包まれた楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。

 

   出産間近の農家のお嫁さんを取り巻く大騒動をテーマにした寸劇だが、セリフの中に散りばめられた言葉や筋書きから、古き良き時代の農家の人々の生活ぶりがうかがえる。劇中に登場した年代物のフィアットの救急車は、なんと近隣の博物館がこの芝居のために貸し出してくれたものだとか。実はこの救急車、フィアットの創業者一族のアニエッリ氏がかつてこの地域に寄付したもの。小道具の一つ一つにも地域の歴史を物語る逸話があって、大笑いしながら勉強もさせてもらった。寸劇の後はトスカーナの民謡も披露され、拍手喝采のうちに幕が下りた。

 

かつてこの地方を訪れたアニエッリ氏が、思いがけず急病に見舞われた。ところがここには救急車がなかったため、農民たちが4人がかりで氏を担ぎ、夜通し歩いて病院へ運んだ。アニエッリ氏は回復後、農民たちへの感謝を込めてこの救急車を寄付したという(上)。ストルネッロと呼ばれる独特の即興民謡の披露も行われた(下)。イタリアの映画監督・俳優のロベルト・ベニーニも、ストルネッロを習いにこの地域を訪れたという。

 

   日が暮れて夜8時半を回る頃、800名が勢ぞろいして大ディナーが始まった。巨大テントの下には長い木のテーブルと椅子がずらりと並び、大笑いしてお腹をすかせた人々が待ち遠しそうに皿が運ばれてくるのを待っている。農家の人々が手作りで用意してくれた伝統の家庭料理を待つ間にも、手打ちパスタの実演や民謡のコンサートとダンスなどが披露され、盛りだくさんのプログラムが続く。トスカーナの農家のマンマの手料理なら味は保証つきだと想像できるが、いかんせん、800名分の料理を作る機会などそうそうあるものではない。ウエイターもウエイトレスも農家の若者たちなので、何もかもがゆったりペースで進む。最初の皿が運ばれてきたのは夜9時半過ぎで、そこからパスタ、肉料理と続き、ドルチェと食後酒は夜中の0時を回ってから登場。どれもこれもどっしりとした大地の味が染み込んだ美味しさで、ワインも食後酒もたっぷりいただいて大満足。食べ疲れて席を立ったのは午前0時半頃だったが、会場ではくじ引きとダンスがまさにこれから始まろうとしていた。「お楽しみはまだまだこれからだよ!」というアナウンスを背後に、疲れ知らずの農民たちのパワーに圧倒されつつ、はちきれそうなお腹を抱えた私は夜の畑道を歩き出した。

 

料理が来るのを待つ間、地方色豊かな民謡とダンスを楽しむ(上)。大テントの下、800人が一つになって同じ食卓を囲む(中)。サラミやブルスケッタの前菜に始まり、ミートソースの手打ちパスタ「タリアテッレ・アル・ラグー」、ガチョウのローストなど手作りの料理が振る舞われた(下)

 

★ MAP ★

<アクセス>

アンギアーリ周辺へのアクセスの拠点はアレッツォ(Arezzo)となる。イタリア各地から鉄道でアレッツォへ、そこからバスで約50分。もしくは、ローマから長距離バスでサンセポルクロ(Sansepolcro)経由、ローカルバスに乗り換える。サンセポルクロ=アンギアーリは車で約15分、アレッツォ=アンギアーリは車で約50分。

 

<参考サイト>
・アンギアーリ周辺のインフォメーション・サイト(英語)
http://www.valtiberinaintoscana.it/anghiari/how-to-reach
・アンギアーリ周辺のイベント・最新インフォメーション(FB)
https://www.facebook.com/ValtiberinaInformaQuotidiano/
・アレッツォからのバス(イタリア語)
http://www.etruriamobilita.it/
・アンギアーリ観光・案内(FB)
https://www.facebook.com/prolocoanghiari/

 

「ブーツの国の街角で」vol.19 (2017.08.22)